template

Articles

19期生 南 忠宏

公立病院における手術支援ロボット ダ・ヴィンチの導入要因

 2016 年における予想罹患者数が 100 万人以上、予想死亡者数が約 37 万人と がんは、日本人にとって最も深刻な国民病といえる。また、総務省によると、 2030 年頃に日本の老年人口比率はおよそ 30%に達し、世界に先駆けて超高齢 社会に突入すると予想されており、がん罹患者数は増え続ける可能性が高い。 このように、深刻な疾病であるがんに対して新しいアプローチを提供している のが、本研究で扱う手術支援ロボットの代表格であるダ・ヴィンチである。 ダ・ヴィンチとは、従来の内視鏡手術の利点を維持しながら、欠点を改善し た最先端の医療機器である。そのダ・ヴィンチをどのような公立病院が導入し ているかに関して、ダ・ヴィンチ導入に影響を与える条件を導入前要因・予算 制約要因・導入後要因の三つに大別し、それぞれの要因ごとに複数の仮説を立 てながら論を進めた。 導入前要因は、病院に対しダ・ヴィンチ導入を考慮する契機を与える性質の 要因である。予算制約要因は、病院にダ・ヴィンチを購入・維持・使用するた めの経済力が備わっているかどうかを示し、導入後要因は、ダ・ヴィンチ導入 から得られる便益に関連するものと定義する。 この大枠に基づいて、変数とモデルを作成し、分析した結果、病院の規模と ダ・ヴィンチの導入は正の相関関係があることが分かった。一方で、規模の変 数以外の変数はほとんど有意な結果を得ることができなかった。このことか ら、総務省が指揮する公立病院改革の目的の一つである「基幹病院と後方病院 の再編成」をより効率的に行うために、国や地方自治体が主体となり、ダ・ヴ ィンチを導入する病院をトップダウン的に選別している可能性が示唆された。 国が効率的な医療体制の確立を目指すあまり、ダ・ヴィンチのような先進医 療機器の導入が推進されないという問題点を指摘できたことが本研究の大きな 貢献である。

Back