19期生 瀬口 貴久
政府開発援助の貿易と直接投資への影響
東南アジアとそ
の周辺国についての実証分析
本研究は、日本から東南アジアとその周辺国への援助と日本以外の国から東 南アジアとその周辺国への援助について、有償資金協力・無償資金協力・技術協 力の三つに分類し、どの形態の援助が日本と被援助国の間の貿易額や、日本から 被援助国への直接投資額に影響しているのか分析したものである 日本は開発協力大綱に基づいて ODA を積極的行っており、支出総額は 2015 年時点で世界第四位である。また 2015 年度版の外務省の開発協力白書によれ ば、日本の二国間政府開発援助供与国の上位 10 カ国のうち 8 カ国が東南アジア 及びその周辺国である。また東南アジア及びその周辺国は近年経済発展が進ん でおり、日本を含む先進国による ODA の成果が現れていると言える。しかし、 日本としても ODA を国益や企業の海外進出に結び付ける必要がある。そこで本 研究では、日本が援助に最も力を入れている東南アジアとその周辺国に対象を 絞った。説明変数には日本からの援助額と日本以外の国からの援助額を取り、被 説明変数には国益の代理変数として日本と東南アジアとその周辺国との二国間 貿易額を、日本企業の海外進出の代理変数として日本から東南アジア及びその 周辺国への直接投資額を取った。貿易と援助の関係の分析では 2001 年から 2015 年のパネルデータを、直接投資と援助の関係の分析では 2003 年から 2014 年の パネルデータを用いて変量効果モデルで分析した。 結果としては、日本の有償資金協力と技術協力が、貿易額にも直接投資額にも 正の有意な影響を与えることがわかった。また係数を比較するといずれの分析 でも技術協力の方が大きくなった。日本は有償資金協力の比率が高いので、現在 の援助政策のままでも利益は得られるが、世界でトップクラスの日本の技術が 被援助国の経済発展や生活水準向上に役に立ち、貿易拡大や直接投資の魅力の 増大をもたらしていると考えられるので、今後は JICA を中心として技術協力 にさらに力を入れることを提案する。