19期生 隅木 夏子
観光資源として温泉地の魅力を高めるためには
―地域ブランドの概念を用いた
実証分析―
本研究では、地域団体商標制度が温泉地のブランド形成に効果を持つのかどうか、また 温泉地が観光資源として魅力を高めるためにはどうしたら良いのか、全国の温泉旅館組合 を対象に分析を行った。近年、クール・ジャパンの言葉に代表されるように、日本ブラン ドが世界的に注目を集めている。このブランドを模倣から守り、より魅力度を高め、日本 国内だけでなく海外にも発信していくために日本では様々な政策が施されている。本研究 では中でもそれらの政策の先駆けとなった、地域団体商標制度に注目した。この制度導入 により、新たに「地域名+商品・役務名」の文字から成るものでも商標登録が可能にな り、1 万件を越える商品・サービスが商標登録の対象となった。数ある産品・サービスの 中でも温泉地に注目した理由としては、そこに行かなければ消費できない点、外国人から 根強い人気を集めており、日本の観光産業に大きく貢献している点で、他と異なると考え たからである。 本研究ではまず、地域団体商標取得の要因をロジットモデルを用いて分析を行った。そ の後、温泉地の集客要因に関して、変量効果モデルを用いて、温泉地の地名度・質、周辺 観光資源、交通アクセスの三つの観点から分析を行った。この分析では、被説明変数に入 湯税収入と外国人宿泊者数を用いた。観光魅力の計測を試みた実証分析では、都道府県や 市町村ごとのデータを用いたものや、アンケート調査結果を使用したものが殆どである 中、公表データを用い、個別の温泉旅館組合ごとに分析を行った点に本研究の意義がある と考える。 分析の結果、知名度の高い温泉地ほど地域団体商標の取得が可能であることが明らかに なった。このことから、知名度が高くなるほど第三者の不正利用を防ぐために商標の登録 を申請し、その申請も通りやすいことが考えられる。また、地域団体商標取得の効果は、 単年度で見た場合その効果は表れず、長期的に見た際に入湯税収入に負の効果を持つ結果 となった。このことから、地域団体商標は地域ブランドの形成・強化には効果を持たない ことが明らかになった。負に働いた原因として、商標を取得することで組合加入への参入 障壁となることが考えられる。事前に温泉旅館組合に行った電話アンケート調査で、商標 獲得後に PR により力を入れ始めたり、温泉ブランドを守る意識が高まって地域の結束が 高まるとの回答が得られたので、より長期的な分析を行った場合は正の効果が表れること も考えられる。また、知名度・質を表す変数として、日本百名湯への入選、観光資源の変 数として公園・遊園地数、伝統的建物群保存地区登録数、祭事・イベント数が正に有意な 結果となった。このことから、これらの観光資源や知名度を表す指標と合わせて温泉地を PR していくことは、集客を伸ばす上で有効であると考えられる。