19期生 柳沢 佳典
公開維持型バイアウトの経営パフォーマンス改善効果
2012 年に実施された英プライベート・エクイティファンドのペルミラによる大手回転寿 司チェーン「あきんどスシロー」の買収や、2015 年に実施された米プライベート・エクイ ティファンドのベインキャピタルによる温泉旅館チェーン「大江戸温泉ホールディングス」 の買収など、近年はプライベート・エクイティファンドによる大企業の買収が活発化して きている。このように成長は見込めるが潜在能力を出し切れていない企業に投資し、ファ ンドのノウハウを駆使してバリューアップを図る投資手法は一般にバイアウト投資と呼ば れる。 本稿では、2001 年から 2014 年の間に日本で行われた株式公開維持型のバイアウト案件 26 件を対象にし、バイアウト投資が実際に被買収企業の経営パフォーマンスを改善してい るのか実証分析した。まず公開維持型と非公開化型の案件の違いを考察するために、一次 分析としてプロビット・モデルを用いた分析を行い、その後に二次分析として Wilcoxon signed-rank 検定を用いて被買収企業の買収後のパフォーマンス分析を行った。 一次分析の結果、非公開化という意思決定と買収前の利払い額、PBR、役員持株比率の 間に負の相関が観察された。これにより、日本のバイアウト・ファンドは(1)非公開化によ る節税効果、エージェンシーコスト削減を重視し、これらの効果が期待できない案件では 上場維持を選択する(2)PBR が低くなく、まだ上場を維持するメリットを享受することが可 能な場合は上場を維持する、の 2 つの可能性があることが示唆された。 二次分析の結果、買収 1 期後、2 期後に被買収企業の ROE、ROA がコントロール企業を 有意に上回っており、また売上原価は有意に下回っていることが観察された。これにより、 公開維持型バイアウトでは(1)財務レバレッジを高めることによる ROE の改善(2)原価を中 心としたコスト削減、の 2 つを通してバリューアップが達成される可能性があることが示 唆された。また、買収 3 期後、4 期後、5 期後では有意な結果を得られなかったため、バリ ューアップ機能には短期的な性格があることも示唆された。