20期 星 紀翔
医療・福祉産業における労働需要の上昇が女性の就業率,生活保護受給率に与える影響
本研究は,2000 年の介護保険制度の導入によって生じた介護産業における労働需要の上昇が,女性の就業率と生活保護受給率に与えた影響を検証した.本研究の主要な結果は次の点である.第一に,2000 年以降の女性就業率の上昇は,医療・福祉産業で就業する女性の対人口比率の上昇によって大部分が説明されることを示した.第二に,医療・福祉産業における労働需要の上昇が,医療・福祉産業で就業する女性の対人口比率に正の影響を持つことを介入効果を含めて示した.第三に,医療・福祉産業で就業する女性の対人口比率の上昇が,女性の生活保護受給者割合に負の影響を持つことを示した.この結果は,医療・福祉産業における労働需要の上昇が,女性就業率の上昇と男女間就業格差の是正に寄与していることから,高齢化社会が労働市場にポジティブな効果をもたらしていることを示唆する.また,医療・福祉産業で就業する女性の対人口比率の上昇が,女性の生活保護受給者割合の減少に影響していることから,介護サービスが受益者の厚生を改善するのみならず,労働市場における補完的な保険として機能している可能性を示唆しており,このことは介護サービスが介護保険料と税金によって賄われ提供されている点からも重要である.