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20期 今井 克哉

定住自立圏構想政策の効果の実証分析
~人口減少の防波堤としての役割~

 本論文では、平成 20 年に総務省が発表した「定住自立圏構想」の本来の目的 である地方における人口減少の防波堤としての役割が果たされているのかを、 実証分析により明らかにした。 平成 29 年 8 月 8 日に総務省が公表した「定住自立圏構想の進捗状況 ・総務 省の取組について」には定住自立圏の人口変化に関する調査結果が記載されて いる。しかしこの検証方法は実証分析ではなく、マクロの動きをコントロールで きていない、市町村固有の効果を取り除けていない、同時決定・内生性のバイア スを排除しきれていない、といった様々な問題点が挙げられた。そこで本研究で はパネル固定効果 DID 分析を行い、上記の問題点を克服した分析を行う。 本分析では、人口変化を見る対象として市ではなく町村としているが、その 理由としては以下の二つがある。一つとしては、定住自立圏において市は内生 変数であるが、町村は外生変数であるからである。二つに、社会人口の増減と いう効果が宣言市よりも周辺町村の方に表れやすいと考えるからだ。データの 期間は 2006~2015 年の 10 年間、対象は 851 の町村で、サンプル数 8510 の バランスパネルデータである。サンプルサイズを町村、町のみ、村のみ、被説 明変数を社会人口増減率、転入者率、転出者率、などと様々な組み合わせで分 析を行った。 本分析結果から、定住自立圏を形成したことにより、周辺町村の社会人口は 増加する傾向があり、その効果は町よりも村の方が大きいと考えられる。しか し「定住自立圏構想」の政策目的と反し、定住自立圏を形成しても転出者は減 少せず、むしろ人口は流出していると考えられる。一方、定住自立圏を形成し た地域では転入者の数が転出者の数を上回っているために、社会人口が増加す ると考えられる。したがって、「定住自立圏構想」には人口流出抑制の効果は ないが、人口の流動性を高める効果があり、転入者を転出者よりも増加させ、 結果としてその圏域の社会人口を増加させていると考えられる。

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