20期生 水野 岳
自治体による国際標準 ISO14001 の運用の実証分析
―認証取得から返上までの全体像に着目して―
本研究は、自治体による国際標準 ISO14001 の導入から返上までの約 20 年間にわたる全 体像を、パネルデータを用いて分析を行ったものである。環境に関する国際標準の運用事例 に着目した本研究は、日本の自治体による ISO14001 運用の全体像を統計的手法によって 捉えた初の研究として位置づけられる。全国の市区を対象に、Cox 比例ハザードモデル・固 定効果 DID 分析を用いて、自治体が ISO14001 を導入した要因・自治体が ISO14001 を運 用した効果・自治体が ISO14001 を返上した要因の 3 つの分析を行った。 実証分析から次のことが分かった。第一は、自治体財政の環境行政への影響である。財政 状況が良い自治体はより早く ISO14001 の導入を行い、財政状況が悪い自治体は運用中の ISO14001 をより早く返上する。さらに、財政状況によって ISO14001 の返上動機の二極化 が見られる。第二は、自治体の歳出費用と ISO14001 運用の関係性である。ISO14001 導入 前の自治体はその費用削減効果を期待していなかったが、運用によって費用削減効果が現 れた自治体から ISO14001 を返上するという流れが存在する。さらに、ISO14001 の運用に よる費用削減効果も実証的に示された。第三に、ISO14001 の運用による環境状況改善への 影響がないことが分かった。第四に、市民や事業者の環境意識が環境行政の政策判断に影響 を与えていることが示された。自治体の環境行政の担当者への調査から立てた仮説を基に、 ごみ排出量のデータを環境意識の代理変数として用いて検証を行った。第五に、首長交代は ISO14001 の導入・返上を早める効果はないことが分かった。