20期生 滝口 望実
生命保険会社の株式会社化が経営の効率性に与える影響
2000 年代初頭にかけて実施された金融緩和政策により生命保険市場は異業種企業や外 資系生命保険会社の新規参入が相次ぎ、競争が激化した。保険会社に特有の組織形態で ある相互会社は株式を発行することによる資金調達手段を持たず、株式会社形態の生命 保険会社に比べて新たな保険商品の開発や買収・合併による企業規模の拡大といった企 業の持続的成長に関して制約が大きい。従って、経営効率性の観点から株式会社と相互 会社の比較を行った研究は数多くなされている。そのような中で、2000 年の改正保険 業法では相互会社の株式会社化が認められ、現在までに太陽生命、大同生命、三井生 命、第一生命の 4 社が組織形態を株式会社に移行した。本研究では、生命保険会社の 株式会社化がその保険会社の経営効率性に与える影響を計量的に分析する。 本研究では、1996 年から 2015 年までの間に組織形態を株式会社に移行した生命保険 会社 4 社の、株式会社化前後での経営効率性の変化を捉えたパネル固定効果 DID 分析 を行う。経営効率性を示す指標として①保険金支払いに対する保険料収入の割合、②総 資産に対する資産運用収益の割合、③総資産に対する経常費用の割合、を用いた。実証 分析の結果、本研究で使用した経営効率性指標については、株式会社化前後で有意な変 化をとっていないことが分かった。有意な結果を得られなかった原因としては、株式会 社に組織形態を移行した生命保険会社が 4 社と少なかったことや、国内の生命保険市 場では企業規模や保険料収入などにおいて相互会社形態の保険会社(日本生命、住友生 命、明治安田生命、富国生命、朝日生命)が大きなシェアを占めており、相互会社の競 争優位性が依然として強いといったことが挙げられる。