21期生 葉玉 馨
日本企業の多角化が負債調達能力に与えた影響の実証分析
~1960年代・70年代の鉄鋼産業の分析から~
本研究では、多角化が企業の負債調達能力を向上させることを計量分析によって実証した。多角化についての研究は米国を中心に蓄積が進んでいるが、多角化と負債調達能力の関係を日本企業において実証した研究は未だ少ない。そこで本研究では、1966-72年の東証1部上場の鉄鋼企業を対象にパネルデータ固定効果分析を行い、多角化が負債調達能力に与える影響を明らかにした。多角化の研究で大きな課題となるのは、企業の多角化指数をどのように算出するかという点である。本研究では、鉄鋼企業が工場毎の特色を考慮して設備投資を行っていることに注目し、多角化の指標として各企業における工場別投下資本割合の二乗和を採用した。結果として多角化が負債調達能力を有意に向上させることを示すことができた。但し、本研究には以下の課題が存在する。それは、企業間の資本関係を考慮した結果ではないという点、多角化指数が企業の多角化度合いを正確に反映したものではないという点、である。しかしながら、以上の課題はセグメント開示制度の発展によって解消されるものであり、将来の研究によって分析の深化が期待できる。