21期生 小熊坂 湧太
文部科学省クラスター政策が研究者に与えた影響の実証分析
研究開発における連携の重要性が増す中、産学官の知の集積を行うクラスター政策の評価を行うことは、科学技術の振興を考える上で重要である。わが国では文部科学省および経済産業省で2000年代からクラスター政策が行われてきたが、特に大学研究者へのミクロデータを用いた効果分析は不十分であった。そこで、文部科学省が実施した「知的クラスター創成事業」のうち、特に福岡・北九州地域の事業について、中核機関の一つである九州大学の3 部局の研究者の研究アウトプットに与えた影響の実証分析を行った。データとしてWeb of Science(WoS)の書誌情報と科学研究費助成事業(科研費)の研究課題データベースを利用してWoS における論文数や被引用数、科研費課題成果数を取得し、1998 年から2009 年までの研究者を単位としたパネルデータを構築して固定効果DID 分析を行った。結果として当該政策は研究者の論文の量・質に有意に正の効果を持つものの、その効果は研究者個人の経験に依存し、一定以上の経験を持つ研究者にとってはむしろ負の効果を持つことが分かった。また科研費の成果について、特にその質に対して負の効果が確認された。これらの結果から、クラスター政策は画一的に参加研究者に正の効果を与えるわけではなく、同政策の評価にはミクロの視点と公的研究開発との代替性に留意することが必要であるといえる。