21期生 鈴木 裕季菜
がん罹患率の地域性についての一考察: 都道府県別データによる比較分析
本論文は,公開された8年分(2007~2014年)の都道府県別データを利用して,わが国において顕著に観察される乳がん罹患率の地域性について実証的に分析する。これまで個々の乳がん罹患リスク要因については,症例対照研究やコホート研究の体で多くの研究が行われてきたが,全国を対象とした比較分析については十分な研究の蓄積があるとは言えない。罹患率は年々上昇傾向にあるものの,乳がんは発見が比較的容易で予後が良好なために死亡率が低いが故に,乳がん罹患についての実証研究がそもそも乏しいといえよう。そこで本論文は,都道府県レベルで,乳がん罹患リスク要因の影響度と罹患率の地域性との関係を明らかにする。8年分のプールデータを対象とした最小二乗法によるクロスセクション回帰分析(pooled cross-sectional analysis)の結果,味噌・豆腐(イソフラボン含有量が小),動物性脂肪(牛肉・豚肉),バターは乳がん罹患には直接影響しないが,飲酒,チーズ,ヨーグルトが有意な正の効果を持つこと,出産,牛乳,納豆(イソフラボン含有量が大)が有意な負の効果を持つことが明らかとなった。さらには,有意な効果が認められた各要因ごとに罹患リスクの影響度を数値化したものを都道府県ごとに合算(正に有意にでた要因は加算,負に有意にでた要因は減算)することにより,乳がん罹患率の地域格差は罹患リスクの影響度の合算値で説明できることも明らかとなった。加えて,これまでの研究では罹患リスク要因と認識されていない“隠れた”罹患リスク要因の存在を示唆する知見も得ることができた。