22期生 工藤 京平
人的ネットワークが転職結果に与える影響
本稿では、日本の労働市場において転職者が有するネットワークが転職後の年収や職務満足度に与える影響を検証した。これまでのネットワークと転職に関する研究においては、ネットワークの効果に関して安定した結果は得られず、近年ではその効果はかなり弱いものであろうという結論が大半を占めている。しかしながら、そうした結論を導く多くの研究において内生性の問題が十分に対処されてきているとは言えない。そこで本研究では、まず内生性の問題の中でもサンプルセレクションバイアスに対処した分析を行い、高位職者におけるネットワーク効果を検証する。また、転職背景によってネットワークが異なる効果を持つ可能性から、離職理由別の分析も行った。さらに、ネットワークはリストラや倒産といった不測の事態にある労働者において有効に働くのではないかという仮説から、これをネットワークのセーフティネット効果と呼び、検証する。分析データには、東大社研・若年パネル調査(JLPS-Y)wave1-9,2007-2015」・「東大社研・壮年パネル調査(JLPS-M)wave1-9,2007-2015」(東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト)を用いた。分析の結果、仕事上のネットワークは高位職の転職者において10%水準で有意に転職後の年収を高めることがわかったが、離職理由によって効果が異なることは示せなかった。また、セーフティネット効果に関しては有意な結果を得ることはできなかった。ここから、ネットワークは転職において依然と効果を有している可能性を示すことができたと言える。しかし、セーフティネット効果を持つかどうかは今後さらなる研究が進められる必要があるだろう。
キーワード:転職、ネットワーク、セーフティネット、パネル固定効果分析、順序ロジットモデル