22期生 吉田 大志
産科医療補償制度が産婦人科医師数の増加に与えた影響について
2009年に産科医療補償制度が創設され、医師(分娩機関)の過失に有無に関わらず、分娩の際に重度の脳性麻痺を負った児の保護者に対して、総額3000万円の補償金が支払われるようになった。産科医療補償制度施行後、医師と児の保護者とのトラブルが未然に防がれたことにより、産婦人科医師数が増加したといわれているが、その増加率は分娩リスクの高い2次医療圏では大きいと考えられる。
本研究では、医療施設静態調査に基づく2次医療圏データと2次医療圏データベースの産婦人科医師数データを収集・整理して、差分の差分法(DID)を行い、産科医療補償制度による産婦人科医師数増加の効果が「診療所での分娩比率が平均以上の2次医療圏」や「全分娩に占める帝王切開の割合が平均以上の2次医療圏」、「NICUを有している病院がある2次医療圏」、「MFICUを有している病院がある2次医療圏」ではそうではない2次医療圏に比べて強いのかを分析した。
診療所での分娩比率が平均以上の2 次医療圏では、病院勤務の産婦人科医師数が10.1%、診療所勤務の40歳以上の産婦人科医師数が6.7%増加した。帝王切開比率が平均以上の2次医療圏では、病院では全体が14.2%と39歳以下が 1.0%、診療所では40歳以上の産婦人科医師数が8.3%増加した。NICUを有する2次医療圏では、39歳以下の病院勤務産婦人科医師数が14.4%、MFICUを有する2次医療圏では全体が9.4%、39歳以下が8.7%、40歳以上が7.3%の病院勤務産婦人科医師数が増加した。
よって、産科医療補償制度は分娩に携わる人的資源が充足していない、あるいはハイリスクな分娩を取り扱う2次医療圏の産婦人科医師数を増加させる、一定の効果がみられるとわかった。