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23期生 阿曽 友哉

地方自治体による創業支援政策の効果―「創業支援事業計画」認定制度を題材に―

 開業を促進し、雇用やイノベーションを創出することは、長きに渡って低迷してきた日本の経済を再興するための最重要課題の1つである。2013年に閣議決定された「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」においては、「産業の新陳代謝を促すことで、開業率が廃業率を上回る状態にし、開業率・廃業率が米国・英国レベル(10%台)になることを目指す。」という政策方針が示された。本稿では、このような状況を受けて2014年に開始された「創業支援事業計画」認定制度を題材に、国の認定や支援を受けて市区町村が民間団体と連携して実施する創業支援政策の効果検証を行った。これまで、日本においては国や都道府県レベルでの創業支援政策に関する実証研究は行われてきたが、市区町村が主体となる創業支援政策の効果分析を行った研究はみられない。また、イノベーション政策研究において近年注目を浴びているmultilevel policy mixの観点からも市区町村による創業支援を国が認定し支援する制度の効果を検証することは意義がある。本稿は市区町村別の5期間のパネルデータを用いて固定効果分析と差の差(difference-in-differences:DID)の分析を組み合わせた因果識別の手法により、「創業支援事業計画」認定制度が開業率に与える影響を定量的に分析した。平均的な効果の検証だけでなく、産業別や地域特性別等で分類し、どのような地域でどのような類の開業に効果がみられたのかを実証的に分析したところに本研究の貢献がある。分析の結果、「創業支援事業計画」の認定を受けた市区町村において、認定後に未認定の自治体と比較して開業率が有意に上昇したことが示された。しかし、「日本再興戦略―JAPAN is BACK―」において設定された開業率10%の達成には遠く及ばない水準である。産業別では電気ガス熱供給水道業を含む6つの産業において、地域特性別では開業に一般的に不利とされる地域において、開業率の有意な上昇が確認された。本稿には、当該認定制度以外の従来の創業支援の存在、開業率に影響を与える心理的要因、「創業支援事業計画」の内容の違いを十分に考慮していないという課題はあるものの、中央政府の支援を受けて地方自治体が民間団体と連携して支援を行うという新たなスキームの創業支援政策の効果を定量的に明らかにしたことは、創業に関する政策研究にとって重要な貢献である。地域経済の活性化の実現のため、国と自治体が連携し地域の実情に見合った支援が求められる中で、より一層の実証研究の進展が期待される。

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