23期生 森野 翔弥
女性の喫煙と社会進出の分析
【背景】現在の喫煙問題は公衆衛生上の課題に留まらず、開発・政治分野に関わる程深刻化している。なかでも、女性喫煙の問題は、男女格差などのジェンダーの問題との関わりが深く、現代社会の最重要課題である。この喫煙問題に対して、WHOはFCTCを発行し、国連はSDGsにFCTCの実施強化を組み込むなど、グローバルレベルでの取り組みが始まっている。また、ジェンダーギャップは社会的・経済的負担であることが指摘され、その是正が進んでいる。このような状況下、女性の社会的地位の向上と女性喫煙の関係を検証することは重要である。【目的】本研究の目的は、「女性の社会進出と喫煙の関係を検証すること、及び社会進出が喫煙に対して正の影響を与えるとき、その効果を軽減するたばこ規制政策を特定すること」である。【方法】パネル固定効果分析を行う。被説明変数には女性喫煙率を使用し、説明変数には所得・雇用・教育・政治的影響力のシグナルとして女性一人当たりGNI・女性就業率・女性管理職割合・女性平均教育年数・女性議員割合を使用する。なお、分析は全サンプルと先進国・発展途上国のサブサンプルで行う。データはthe WHOreport on the global tobacco epidemic.とHuman Development Report 2019.から取得した。【結果】女性平均教育年数が女性喫煙に対して正の影響を与えていることが明らかになった。また、その効果は先進国でより強かった。発展途上国では女性平均教育年数が女性喫煙に対して負の影響を与えているという結果となった。そして、女性平均教育年数が女性喫煙に与える正の効果は、適切なレベルでたばこ規制政策を導入することでほとんど打ち消すことができることが明らかになった。特に人々に健康コストを認識させる警告表示政策の効果が高かった。【結論】女性の社会的地位向上が女性喫煙率を上昇させる一因となっていることが明らかになった。しかし、この効果は適切なたばこ規制政策の導入により軽減できることも明らかになった。これはジェンダーギャップの是正を進めていくうえで、同時にたばこ規制政策の整備が必要であることを意味する。各国はWHOや国連が主張しているFCTCの実施強化に早急に取り組むべきである。発展途上国に関しては、女性の社会進出と喫煙の間に正の関係は見られなかった。この点についての分析が今後の課題として残された。しかし、たばこ流行の段階が先進国に比べて遅れているだけである可能性があり、いずれにせよFCTCの実施強化は発展途上国においても重要である。また、本研究ではデータの制約上国民の心理的要因をモデルに組み込めていない点とたばこ規制政策の内生性を考慮しきれていないという分析上の限界がある。