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23期生 西倉 愛菜

株式投資型クラウドファンディングの成功要因分析

 株式投資型クラウドファンディングは、中小企業に対する新たなエクイティファイナンスの手段として注目を集めているが、そのデータの制約から日本では実証研究が行われてこなかった。また、株式投資型クラウドファンディングに参加する企業の財務健全性に関する研究の蓄積も乏しい。このことを踏まえ、本論文は、日本の株式投資型クラウドファンディングについて、債務超過の有無やシグナリングなど、資金調達の達成度に影響をもたらす要因をトービットモデルによって分析した。本論文のデータソースとしては、主に日本の株式投資型クラウドファンディングの各プラットフォームサイトに掲載されている案件情報を採用した。また、プラットフォームサイトに掲載されていない不成立案件については、日本証券業協会「株式投資型クラウドファンディング取扱状況」より取得した企業名をもとに、個人投資家が開設しているブログから情報を得た。 主な分析結果として、債務超過の有無は資金調達の達成度に有意な影響をもたらさないことが明らかになった。また、資金調達の達成度に対し、大手企業や大手銀行・政府系金融機関との取引関係、事業会社からの出資、特許の取得が効果的であることが示された。 本論文の分析結果より、債務超過企業であっても、株式投資型クラウドファンディングにおいて資金調達が可能であることが示唆された。すなわち、優れた商品・サービスを保有しているにも関わらず、債務超過を理由に従来のファイナンスでは資金調達ができなかった企業に対し、株式投資型クラウドファンディングは新たな資金供給源となりうる。ただし、株式投資型クラウドファンディングのプラットフォームに掲載されるためには、運営会社による厳格な審査を通過する必要があることに注意されたい。また、企業の社会的信用と知的財産が資金調達の達成に対する重要な要素であることが明らかとなった。株式投資型クラウドファンディングに挑戦する企業は、こうした資本を十分に蓄積し、企業の成長性や将来性を示すことが重要であるといえる。本稿の最大の課題として、サンプルセレクションバイアスが挙げられる。本論文で使用したサンプルはすべてプラットフォームサイト運営会社の審査を通過しており、審査で不合格となったものは含まれていない。しかし、株式投資型クラウドファンディングに参加する企業がすべてIPOやM&Aに成功するとは限らないことに鑑みれば、投資家は少しでもリスクの低い案件、つまり企業の将来性や安全性が見込める案件を選択する行動を取っていることが考えられ、そうした企業の将来性と安全性を示すシグナリングを分析した点に本論文の意義があると考えている。日本の株式投資型クラウドファンディングは2017年に開始されたばかりであり、今後の成長に期待したい。

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