23期生 奥山 裕斗
ビデオゲーム配信がプレイ人数に与える効果の定量分析
esportsの進展に伴い、ビデオゲーム業界およびそのゲームソフトを用いて競技活動を行う「プロゲーマー」に対する注目度は次第に高まっている。また、そうしたプロゲーマーの活動の中心的なものとして、大会に出場する競技活動と、ビデオゲームの配信活動がある。こうした競技活動は配信プラットフォームにおける配信を通して多くの人に伝わる。また、この配信活動は広告宣伝効果を期待され奨励・認可され始めてきたものの、反対に著作権の保護を目的に制約がかけられてきた歴史がある。さらに、ゲームソフトの「Free-to-Play」化に伴い、そのゲームソフト開発・販売企業とプロゲーマーが行う配信活動との関係性は複雑さを増してきている。本研究では、このようにesports産業において中心的な役割を担いながら、その影響に賛否が分かれるビデオゲーム配信がゲームソフトの販売状況を示す指標であるプレイ人数に対してどのような影響を与えるのか、またその中でも、どのような配信内容がプレイ人数に正の効果を与えるのかについて、定量的な分析を行った。分析対象のゲームソフトは、esportsの競技シーンが盛んな7タイトルを選出し、プレイ人数のデータは主要なPCゲームプレイの主要なプラットフォームである「steam」から、配信データはビデオゲーム配信のシェア一位のプラットフォームである「twitch」から取得した。37日間のデイリーデータでパネルデータを作成し、変量効果モデルによる推定を行った。ビデオゲームの配信の中で、個人が行う個人配信と、組織的に行う大会配信を分けて分析したところ、個人配信においてプレイ人数に対して正の効果が認められた。一方で大会の配信は正の効果が認められなかった。また、配信されるプレイの質に着目し、プレイの質との交互作用について検証も行った。結果として、個人配信においてはプレイの質との負の交互作用効果が認められた。したがって、プロゲーマーのようなプレイの質で認められているプレイヤーよりも、「ストリーマー」のようなプレイの質ではない部分で視聴者を集めているプレイヤーほど、プレイ人数の増加をもたらしていることが考えられる。また、大会配信においてはプレイの質との正の交互作用効果が認められた。よって、プレイの質が高くなる、つまり大会のレベルが上がることで、大会の配信はよりプレイ人数を増加させると考えられる。以上よりゲームソフト販売企業は、ストリーマーのビデオゲーム配信を奨励することや、大会にプロゲーマー等を招待してプレイの質向上に務めることを通して、戦略的にプレイ人数を増加させることができる。これらの結果は少ないゲームソフトを対象にしていることに起因する一般化可能性が低い点と、短期の効果のみを測定しており、長期的にこれらの配信活動が与える影響については測定できていない点に課題があり、留意する必要がある。この課題点を踏まえても、esports業界の中枢を担うプレイヤー・ゲームソフト間の影響を実数値を用いて分析し、ゲームソフト開発・販売企業の意思決定に貢献に足る分析を行ったことは本研究独自の貢献である。