23期生 山辺 敦史
国会本会議および予算委員会における発言が経済へ与える影響の実証分析
新型コロナウイルス感染症期間における分析
本研究は国会議事録データおよび予算委員会議事録データのテキスト解析を基に、行政の代表である内閣総理大臣および国務大臣の発言が日本の株式市場に与える影響について実証的に分析した。 公共政策、補助金、金融政策等、行政による意思決定が経済にもたらす影響は非常に大きいと考えられる。それらの意思決定は通常、突然決まるものではなく、閣議や委員会審議、国会での採決を経て決定される。経済情勢を考えるうえで、それらの情報を基に多くの投資家や企業がそれぞれの戦略を立て、経済活動を行っている。海外の文献では、Donald Trumpアメリカ合衆国第45代大統領のツイートがダウ平均株価にもたらす影響を実証分析し、短期的(日次)に影響していることを示した研究(Colonescu(2018))もある。しかし日本においては、政策の評価(結果の評価)に関する研究は多い一方、日本語のテキスト解析が技術的に英文解析と比して難しいということもあり、審議過程のテキストデータを分析対象としている実証分析はあまり見られない。ニュース報道のような決定事項の公表による影響ではなく、審議の過程で見られる行政府の代表である内閣総理大臣および国務大臣の発言がもたらす経済への影響を明らかにすることが本稿の目的である。国全体として対応が必要な事態に陥っている場合に発言影響が強まると考えられることから、新型コロナウイルス感染症の影響が強まった2020年2月以降のデータを基に分析している。分析手法は、テキストデータを用いて経済指標の実証分析をしている和泉ら(2011)および高杉・山名(2015)において用いられているCPR法の一部拡張モデルを使用した。CPR法とは、共起関係に基づく主要単語の抽出、主成分分析による次元削減および主成分スコアの算出、それを用いた回帰分析、という三段階の工程に分かれた分析手法のことである。国会議事録と予算委員会それぞれの発言による日経平均株価(前日差分)への影響差の分析では、有意な結果は得られなかった。2つめの仮説とした、内閣総理大臣および国務大臣の発言は国会議員の発言よりも日経平均株価(前日差分)に大きな影響を及ぼす、という仮説は一部支持された。しかし、当初想定していた正の影響ではなく負の影響が観測され、発言の文脈がポジティブなものなのかネガティブなものなのか識別できていない本研究の課題が残る形となった。また、株価変動に応じて発言内容が変わっているという逆因果の問題も本研究における課題である。