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23期生 山本 健太

IPOにおける株式配分比率が投資家センチメントとアンダープライシングに与える効果分析

 IPO(新規株式公開)のアノマリーとしてアンダープライシング現象があり、これは上場企業の経営者にとって機会損失とみなされる。なぜなら、企業価値が過小評価された状態で公開価格が決定することにより、本来であれば調達できた資金の一部が、他のIPOのステークホルダーの利益となってしまうからである。一方で、幹事を務める証券会社(引受会社)は公開価格を過小値付けするインセンティブを持つ。一つの理由は、証券会社はIPO企業の株式を引き受けたのちに一部を投資家に配分するが、残りの株式を保有し続けるため、安い公募価格で株式を引き受けて市場内で高く売ることで利鞘を得ることができるからだ。本研究では、幹事証券会社の「個人投資家への株式配分比率」を説明変数として用い、企業特性や市場環境をコントロールしながらアンダープライシングに及ぼす効果を分析する。また、投資家心理を表す「センチメント指標」を用い、個人投資家の心理状態とアンダープライシングの関係を紐解く。投資家のセンチメントについては定量的なものではないので、上場後5営業日の平均売買回転率(日次データ)と上場後4週間の平均信用買い残率(週次データ)を代替変数として用い、株式配分比率が低いとセンチメントが増大すること、センチメントが増大するとアンダープライシングが大きくなることを仮説として設定している。研究対象は2016年1月から2020年10月においてIPOを実施した企業のうち322社である。上場市場は東証マザーズとJASDAQスタンダードの2つに限定している。これは、上場要件などを踏まえ、企業規模や成長性、業歴が近い企業に絞り込むためである。その他、主幹事証券会社が国内主要証券会社10社以外の企業、上場後の株価データが取得できなかった企業はサンプルに含めていない。分析結果としては大きく2つである。1つは株式配分比率が低いとアンダープライシングが大きくなること、もう1つはその現象には投資家センチメントの存在は関係していないことである。つまり、アンダープライシングの要因としてセカンダリー市場に参加する個人投資家の存在は否定できない一方で、配分比率を低くするインセンティブを持つ証券会社による過小値付けのほうが、大きな要因であると考えられる。センチメント指標として用いた2つの変数が適切でなかった可能性は十分にあり、上場前の投資家の注目度や買い意欲を定量化した変数を用いることで新たな示唆を得られるかもしれない。またそのほかの変数について、赤字上場である場合にアンダープライシングが小さくなるという結果になったが、これはRitterandWelch(2002)の結果と相反するものであったため、今後の研究の発展に向けた一つの課題材料としたい。

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