23期生 吉川 捷平
株式保有構成とガバナンス体制が上場子会社の経営成果に与える影響
近年日本で進みつつあるコーポレート・ガバナンス改革において、特に議論が盛んに行われてきたテーマが、親子上場問題である。親子上場は、構造的に上場親会社の利益と、上場子会社の少数株主の利益との間に利益相反が起こりやすい組織形態であると懸念されてきた。本研究は、上場子会社のガバナンス体制とその性質に着目し、それらが企業の収益性にどのような影響を与えるかを分析したものである。具体的には、2012年から2019年を対象期間とし、各上場子会社における独立社外取締役比率や上場子会社の形成経路、親会社以外の大株主の存在が、企業の経営パフォーマンスにどのような影響を与えるのかを、パネルデータ分析を用いて検証した。分析の結果として、独立社外取締役比率と、親会社以外の大株主比率が上場子会社のROAに正の影響を与えることがわかった。どちらの比率も上場子会社は全上場企業の平均と比較して大きく劣後しており、ガバナンスの改善によって経営パフォーマンスが伸びる余地があることが示唆される。本稿は、逆因果の可能性やサンプリング、欠落変数などの課題を多く残しているが、昨今注目を集めている上場子会社における独立社外取締役の導入の議論を踏まえて、子会社のガバナンス体制が経営成果に与える影響を実証的に分析した点で意義があると考えている。親子上場が多くの批判を浴び、ここ数年で規制が急速に進み、また親子上場解消案件が年々増加する中、親子上場を維持しつつ少数株主の利益を毀損しないようなガバナンス改革とその議論の進展が今後期待される。