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23期生 吉川 捷平

農業における統合・連携の効果分析―6次産業化と農商工連携の観点から―

 日本の農業人口は年々減少し、高齢化が加速している。厳しい状況が続く中、注目されているのが農業と他産業との統合・連携である。本研究では農業における垂直統合の6次産業化と異業種連携である農商工連携に注目し、6次産業化認定の決定要因と農業所得向上の決定要因を明らかにする。6次産業化とは農林漁業者が生産を加工・販売との一体的な推進を図り、農山漁村の豊かな地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す取り組みである。一方で、農商工連携とは農林漁業者と商工業者が連携して地域ビジネスの展開や新たな産業を創出し、高付加価値の新商品や新サービスを提供する取り組みである。どちらも事業計画を申請し認定されると資金面等で様々な支援を受けることができる。先行研究は特定の地域や成功事例を用いたものが多い。本研究は8年分の都道府県別データを用いて計量的に分析している点で新規性がある。加えて、本研究の大きな特徴として地域の革新性を示す変数に農業法人率と集落営農組織率を用いている点、6次産業化と農商工連携の両方の変数をモデルに組み込んでいる点の2点が挙げられる。農業法人、集落営農組織は共に経営や制度の面で大きなメリットを持っている。また、女性率や高齢者率、平均経営耕地面積の他に地域の6次産業化の担い手になりうる農協や道の駅の数をコントロール変数に加えたことも本研究の特徴である。全都道府県を対象に固定効果分析を行い、以下の結果を得た。まず、6次産業化が進んでいない地域ほど農業法人が増える可能性があることが示された。また、農業法人と道の駅の存在が農業所得向上に貢献していることが示された。一方で、所得が低い地域ほど集落営農組織を増やしているという可能性も示唆された。そして、5年のタイムラグをとった分析では農商工連携認定数と6次産業化認定率の交差項が有意になった。このことから、農商工連携と6次産業化は一定期間後に相乗効果を発揮するということが判明した。⻑期的視野を持って事業計画を立てる必要があると同時に、その⻑期的目標をサポートできる体制を整備する必要があるだろう。本研究では全体として農業法人が大きな影響を持つことが示された。農業法人が他産業と統合・連携し小規模経営体を巻き込みながら地域全体で発展していくような支援が効果的であると考えられる。最後に本研究の課題として、逆の因果関係を完全に対処できていない点、都道府県別分析にとどまった点の2点が挙げられる。

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