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24期生 早川 咲衣

低用量ピルと女性の社会進出の関係性

 近年の日本では女性の就業率が高まっている一方、女性特有の健康問題による労働損失が生じている。この状況を改善するのに役立つ可能性があるのが低用量ピルである。低用量ピルには避妊効果と月経随伴症状の改善効果があり、ピルの普及が女性の生活の質向上そして社会進出に繋がるのではないかと考える。先行研究では、実際にアメリカやヨーロッパでピル普及によって女性の教育投資、労働参加、収入が増加したことが示されている。本研究では、一つの国や地域に限定せず全世界的にピルが女性の社会進出に影響を与えるのかを検証する。
 本研究では、ピル普及により途上国で女性の労働参加率、先進国で女性管理職・議員の割合が上昇するという3つの仮説を立て検証を行う。その際、先進国59 か国と途上国104 か国の2つのアンバランスト・パネルデータを使用し、固定効果モデルを採用する。「Human Development Report 2020」「ILOSTAT」より取得した女性の労働参加率、女性管理職・議員の割合を被説明変数とし、「World Contraceptive Use 2021」より取得したピル使用率を説明変数、その他に「World Contraceptive Use 2021」や「Data Bank」から取得した近代的避妊方法の使用率、使用可能な避妊方法の数、一人当たりのGDP、女性の平均教育年数をコントロール変数とする。
 分析結果は以下のようになった。まず、途上国ではピル普及により1年後の女性の労働参加率は低下するが、10 年後の女性の平均教育年数が増加することが分かった。また、先進国では10 年後の女性管理職の割合は上昇するが、女性議員の割合には影響はないという結果になった。国レベルで見るとバングラデシュでは、ピル使用率の上昇に伴って女性の労働参加率と教育年数が伸びており、ウルグアイやポーランドでは、ピル使用率の上昇とともに女性管理職・議員の割合も伸びている。ただ、各国でのピル普及と女性の社会進出状況の推移は様々であり、本研究で全世界のデータを用いて分析を行ったところ平均的には大きな効果は見られないという結果になった。したがって、本研究ではピルが女性の社会進出にまで繋がることがはっきりとは示されなかった。
 本研究には課題が4点ある。1点目は全世界で統計方法が統一されておらず、使用しているデータの信頼性に懸念があることだ。2点目はデータの制約である。欠損値が多く分析での観測数が少なくなってしまっていること、年齢階層別の避妊方法使用率や教育年数のデータが得られないことが問題である。3点目は、交絡因子の存在である。女性運動の高まりという説明変数と被説明変数の両方に影響を与える要因をモデルに組み込むことができなかった。最後に4点目は、逆因果の可能性である。女性の社会進出が進むことでピル使用率が高まるという仮説とは逆の因果関係の可能性を排除することができていない。本研究にはこれらの問題点や課題があり、今後はこれらを克服した分析が必要となる。

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