24期生 入口 修輔
シェアサイクル市場の競合性分析
電動キックボードの参入とポート型のサービス形態に着目して
近年マイクロモビリティのシェアサービスは国内外で急速に人気を博してきた。最近では電動キックボードが従来のシェアサイクル市場に参入し、日本でも現在電動キックボードの規制緩和が進んでいる。自転車かキックボードか、街中に特定のモビリティスペースを確保するかなど、様々な形態でサービスが展開されている。各形態の需要分析は行われているが、複数形態の競合性を定量的に分析した研究は少ない。本研究では、国内で展開されているシェアサイクル市場を対象に、サービス形態間の競合性を分析する。
本研究では、都内に展開する2事業者の3サービスのサービス利用のミクロデータを用いて分析を行う。条件付き多項ロジットを用いた離散選択モデルを構築し、価格の限界効果からサービス間の交差弾力性を推定する。そして、「利用者は料金体系に応じて合理的な選択を行い、より同質的であるほどサービス間の代替性は強い。」というシンプルな前提のもと、競合性について考察を行う。
離散選択モデルの推定結果を用いて、価格の限界効果やサービスの選択確率の有意な推定値を得た。そしてサービス間の競合性について、以下三点のことが確認された。第一に利用者は料金体系に応じて概ね合理的にサービスを選択している。しかし、料金体系に対して選択確率の変動が合理的でないサービスが一部存在した。第二に、本研究のケースにおいては、事業者内の競争より事業者間の競争の方が激しい。仮説では、同一の事業者によって展開されるサービスは料金体系やモビリティスペースなど共通のサービス基盤を有するため、同質性が高まり事業者間よりも代替的になると考えた。したがって、仮説とは異なる結果である。第三に、機体の種類による競合性について、電動自転車間の代替性より、電動自転車と電動キックボード間の代替性が強い。直感的には機体の種類が同一である方が同質的であり代替性が高いと考えられるため、こちらも仮説とは異なる結果となった。
日本特有の市場状況を対象に、競合関係を包括的かつ定量的に明らかにしている点で、本研究は経済学的・経営学的に価値あるものだと考える。競合性についての考察では、仮説とは異なる興味深い結果が支持された。しかしデータの制約上ミクロデータを個人で追跡できず、追加的な検証を行えなかった点が、本稿の主要な課題である。また、シェアサイクル以外のその他交通機関の選択肢を考慮できなかった点も重要な課題として挙げられる。今後、オープンデータの公開やミクロデータ利用に関する規制緩和によって、これら課題が解決されることを期待する。