template

Articles

24期生 金子 稜

連携中枢都市圏構想の効果分析

 総人口が減少傾向にあり、都心部への人口流入が進む日本では、今後地方において行政サービスの維持が困難となり、人々が快適に暮らすための基盤が失われてしまうことが懸念されている。このような人口減少の時代に都心部だけでなく地方においても人々が快適に暮らすことのできる持続可能な社会を作ることは重要な課題である。地方自治政策としてこれまで合併・共同処理といった手法が用いられてきたが、それぞれ柔軟性の乏しさや迅速な意思決定が困難などの課題が存在し、新たな連携手法が要請されていた。
 こうした問題意識のもと2014 年8 月25 日に制定されたのが連携中枢都市圏構想である。本構想では中心都市が周辺市町村と圏域を形成し、両者が 1 対 1 で連携内容を決定するため、互いの需要に合わせて柔軟に連携することが可能である。個別のニーズに合わせて連携し圏域を形成するといった政策の事例は少なく、その効果を検証した実証分析は筆者の知る限り存在しない。以上をふまえて、柔軟な連携による費用削減効果について検証する。
 本研究では全市区町村のうち一定条件を満たした 1161 市町村の 2011 年度から 2019 年度のパネルデータを用いて固定効果分析を行う。財政に関するデータは地方財政状況調査から取得した。その他の地域変数については、「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」、「市町村税課税等の調」から取得した。
 中心都市と周辺市町村では都市としての機能、性格が異なるため、両者を区別して分析を行った。主な分析結果は以下の3 点である。第一に、全体歳出に関して、周辺市町村では削減効果が見られないが、中心都市では平均的に削減効果が見られた。しかし、減少幅は微小であった。第二に、財政状況別に分析を行った場合、現時点での財政状況を示す指標で分類すると、財政状況が厳しい市町村よりも余裕のある市町村において削減効果が見られた。また、将来の財政状況に関する指標で分類すると、将来の財政負担が大きい市町村において削減効果が見られた。第三に、歳出を目的別、性質別に細分化すると、歳出が減少する項目と増加する項目が存在し、それらの項目は中心都市と周辺市町村で異なることが確認された。
 本研究の課題としては以下が挙げられる。第一に、連携における費用負担割合などが不明であるため、費用削減のメカニズムを確定することができず、明確な結論を出すことができない。第二に、本構想への参加は各市町村の判断に委ねられるため、内生性の問題が生じる。第三に、本構想の目的として費用削減だけでなくサービスの質の向上が挙げられるが、本研究では後者が考慮されていない。今後、地域の実情に合わせた柔軟な連携に関する実証研究が蓄積され、地方自治政策に貢献することが期待される。

Back