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24期生 小駒 実加

SSH事業が理系進学に及ぼす影響

 社会の急激な変化に伴い、不安定な時代を生き抜くうえでの思考力や、Society5.0を見据えた際の科学技術人材の必要性が重視されており、それを踏まえて改めて教育の重要性が認識されている。
 将来の科学技術人材育成のために、2002年度から文部科学省は「スーパーサイエンスハイスクール(以下SSH)」事業を開始したが、現在有効な評価方法が確立されていない。そこで、本論文では2010年度から2020年度までを分析期間とし、大学通信社からご提供いただいた4598校の高校別の個票データと、文部科学省「学校基本調査」を用いたパネル固定効果分析により、SSHの指定が理系進学に与えた効果を検証する。分析結果より、SSHの指定は理工系学部および医歯薬学部のそれぞれについて合格者を増やすこと、また、指定の効果は男子校で高いことが検証された。
 本論文の新規性は主に3つである。一つ目は、アンケートや意識調査などの主観的指標だけではなく、高校別の大学合格者数という客観的指標を用いて定量的分析を行っていることだ。二つ目の新規性は、SSHの指定校と非指定校を比較してSSHの指定の効果を検証した点である。3つ目の新規性については、全国の高等学校に着目した分析である点である。
 今後の課題は複数あり、ひとつは内生性の問題である。二つ目は、指定校の属性の違いや各高校のSSHプログラムの多様性を十分に考慮することができなかったことであり、より正確なモデル設計が求められる。三つ目はデータの制約であり、今回の分析では、データの制約により東京大学・京都大学以外の大学の農学部および文系学部を含めた分析ができなかった。今後の分析では、文系学部を含む幅広いデータを入手し、両親の学歴や所得水準などをコントロールしていくこと、対照実験を行うことなどより正確な分析が必要である。
 また、本論文はSSHの効果のうち、理系進学にのみ着目しており、科学技術の発展への影響については全く言及していない。SSHの効果を包括的に測るためには、異なる側面からの追加の分析が重要である。しかし、本研究で得られた結果が、より良い教育事業のプログラム設計に資することができれば本望である。

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