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24期生 佐藤 彰

事業継続計画(BCP)策定の開示要因および企業価値向上に関する実証分析

 企業の将来的なリスクを判断する際の枠組みとして ESG (Environmental, Social, Governance) が投資家を中心に注目されており、その中のGovernance に位置付けられるものとしてBusiness Continuity Plan; BCP(事業継続計画)があり、これは企業が将来直面しうるリスクに対する企業の対応を示したものである。先行研究では、BCP 開示要因を分析したものはあるが、企業の外部要因に着目し分析した研究は少ない。また、BCP 開示が企業価値に与える影響を分析した研究はあるが、内生性をコントロールすることが困難とされてきた。そこで、本研究では、株主、サプライチェーン、同業種企業といった外部要因に着目してBCP 開示要因の分析を行い、さらに、BCP が企業価値に与える影響を操作変数法を用いて分析を行い、内生性をコントロールした分析を試みた。
 本研究では、2021 年6 月30 日時点で東証1 部に上場している企業のうち、2015 年7 月1 日から継続して上場している1,994 社を対象として分析を行い、BCP 開示の有無は有価証券報告を参照した。BCP の開示要因に関する分析では、被説明変数をBCP 開示ダミーとし、プロビットモデルを用いて変量効果分析を行った。説明変数に関しては、役員保有株式比率、金融機関保有株式比率、外国人株式保有比率、前年同業種企業のBCP 開示率、子会社・関連会社数を用いた。BCP 開示が企業価値に与える影響に関する分析では、トービンのQ を被説明変数とする変量効果分析、および前年同業種のBCP 開示率を操作変数とする2 段階最小二乗法を用いた分析を行った。説明変数にはBCP 開示を示すダミー変数を用いた。
 主な分析結果として、以下のことが確認された。BCP の開示要因に関する分析では、役員保有株式比率はBCP開示に負に有意であったが、その他の説明変数は有意ではなかった。これは、役員保有株式比率が大きい企業においてはコーポレート・ガバナンスに対する意識が低くなり、逆に役員保有株式比率が小さい企業では株主のコーポレート・ガバナンスに対する意識が高くなることによってBCP を開示することを示唆している。BCP 開示が企業価値に与える影響に関する分析では、変量効果分析で1 年から4 年のラグをとった場合、操作変数法を用いた分析で1 年から3 年のラグをとった場合にBCP 開示がトービンのQ に対して正に有意となった。このことは、有価証券報告書でBCP が開示されることによって、株主は企業が緊急事態の際の対応策を策定していることを把握できるために、株主にとっての企業価値が向上することを示唆している。
 本研究の課題として以下の点があげられる。1 つ目の課題は、BCP に関連するステイクホルダーのうち言及できていないものがあることである。本研究では有価証券報告書でのBCP 開示を分析対象としたために、株主以外のステイクホルダーに着目することができていない。また、本研究では統合報告書や企業のホームページなど、企業がより自由にESG 情報を記述ができる場でのBCP 開示の要因やBCP 開示の効果を検証することができていないという課題もある。以上の課題はあるが、本研究によってBCP 開示が企業価値を向上させることが示された。今後も企業には、ESG 情報の積極的な開示を期待したい。

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