24期生 妹尾 拓馬
医学部地域枠が医師少数地域の医師数増加に与える影響
現在、日本医療は様々な問題を抱えているが、その主要な問題の一つに医療偏在がある。先行研究によると、医療偏在には都道府県間や都道府県内における地域間の偏在、勤務医と開業医の偏在、診療科間の偏在の3つの偏在がある。これらの偏在の影響で、都道府県及び市町村が運営主体である公立病院の規模縮小が進み、救急医療の受け入れができないといった問題や、市長のリコールといった政治問題にまで波及しており、このままの状態が続くと医療崩壊につながると主張している。こういった偏在問題を解決すべく行われた施策として、医学部地域枠というものがある。本研究では医学部地域枠を「知事や都道府県自治体の指定する地域や病院にて一定期間勤務するという条件で、各都道府県自治体から奨学金を借りた医学生」と定義し、地域枠が医師少数地域における医師数の増加にどの程度影響を与えているのかを定量的に検証する。
本研究では全国の335の2次医療圏のうち、一定条件を満たした319の医療圏を分析主体とし、2006-2018年の偶数年7期間分のパネルデータを用いて、固定効果分析を行う。地域枠数のデータは、各都道府県庁のホームページから取得、または各都道府県庁に問い合わせデータをご提供いただいた。その他用いたデータは、厚生労働省または総務省が公表しているものを用いた。分析の結果、医師少数地域において地域枠による医師数増加の有意な効果は見られなかった。この結果を踏まえ、都道府県庁医療政策課にてご活躍の方2名にお話を聞かせていただき、定性的な調査を行なった。そこから、大学病院の医局による人事調整や、地域枠医師のキャリア形成の優先により、地域枠の効果が限定的となる可能性が明らかとなった。
本研究の課題として、診療科間偏在などに着目できていないことや、地域枠は歴史が浅く地域枠医師が派遣されるようになってからの期間が短いこと、個人単位のデータが手に入らないため反映できていないことがあげられる。しかし、地域枠の現時点での効果検証は必要であったことや、地域枠という比較的新しい制度に着目したことは本稿独自の貢献である。今後期間が十分に長くなれば、より正確に地域枠の効果が測定できるだろう。地域枠が医療偏在問題の解消につながることを期待する。