25期生 沈 和暉
百貨店の退出要因分析
百貨店は地域商店街のシンボルとして日本の消費社会と文化を牽引してきた。その百貨店はバブル経済の崩壊以降、市場の縮小や他業種との競争により退出が長期間にわたって続いた。駅周辺や中心商店街に1~2万㎡の売場面積を抱える百貨店の退出は、地域経済に大きな影響を与える。
このような影響力ゆえ、百貨店について様々な研究が行われてきた。しかし、退出の要因について実証分析したものは少ない。国内に限ると、店舗レベルのミクロデータを用いた分析は、筆者の知る限り存在しない。以上を踏まえ、百貨店の退出要因について実証分析する。
本研究では、商圏同士が離れて特定しやすい東北・北陸地方の百貨店52店舗について各都市を一商圏として捉え、cox比例ハザード分析をした。1995年から2021年にわたるパネルデータであり、「百貨店調査年鑑」から取得した。
同じ商圏内にある他の百貨店(競合百貨店)とイトーヨーカ堂、イオンモールの3つを競合店としてそれぞれ百貨店の退出に及ぼす効果を調べた。結果、競合百貨店とイトーヨーカ堂に関しては百貨店の退出を促進する効果が確認された。一方、イオンモールは長らく百貨店退出の原因とされてきたが、有意な効果は検証されなかった。既存百貨店の保護のためにイオンモールなどの郊外大型商業施設を規制する従来のやり方には再検討が必要である。その他の要因として、売場総面積が大きいほど退出が抑制される効果を見ることもできた。一方、ロイヤルティーの代理変数に効果を見ることができなかった。
本研究の課題として以下が挙げられる。第一に、データソースが紙媒体であるため、データの取得に制約があり、分析対象を全国に拡大できなかった。第二に、ユニクロなどの中小規模店舗の影響や建物老朽化による建て替えの影響を分析に取り込むこともできなかった。最後に、ロイヤルティーを示す変数の選択や前提条件の設定から恣意性を排除することができない。今後、地方自治体が百貨店退出の要因を十分に理解し、無理に規制や支援をするのではなく、百貨店の統合や余った土地の利用方法を退出前から検討できるようになることを期待する。