25期生 當間 俊介
24時間営業店舗のもつ外部効果:犯罪発生件数に着目して
近年、コンビニエンスストア(コンビニ)ではフランチャイズ店長の労働環境の悪化と心身の負担の重さ、収益性の低さから、24時間営業を止める店舗が現れている。他方、24時間営業のコンビニには地域の(特に夜間の)利便性向上という地域への正の影響が見られるが、本研究は24時間営業のコンビニが地域の犯罪発生に及ぼす外部効果に注目する。コンビニと犯罪発生の関係は、これまで正と負の両面から議論されてきた。犯罪発生件数を増やす要因としては、若者がコンビニの前でたむろすることや酒類の販売による治安の悪化、コンビニにおける窃盗・強盗・脅迫事件の発生、犯罪者がコンビニで犯罪の標的を選ぶことによって犯罪の機会を増やすことがあげられる。他方、犯罪発生を抑える要因としては、常時店員や顧客など人の目があることにより、避難可能な場所として機能すること、店舗周辺で犯罪を行うことを回避するようになることがあげられる。しかし、これまでコンビニのような24時間営業店舗の犯罪促進・抑止効果については、定量的な検証は行われていない。
本研究は、東京23区と隣接5市の町丁目単位の7年間のパネルデータ(観測数約24,000)を構築し、固定効果分析により、地域のコンビニの犯罪抑止効果を検証する。フェルソン(2005)の「日常活動理論」に基づいて、24時間営業の店舗の周囲には夜間も利用客や通行人という「有能な監視者」が多く、そのため地域の犯罪、特に凶悪犯・粗暴犯よりも窃盗犯(主に非侵入窃盗犯)の発生が抑制されるという仮説を立てる。さらに犯罪抑止効果を24時間営業のコンビニ店舗と一般の食料品店舗で比較分析する。毎年の地区ごとの店舗数はNAVITIMEおよび開店閉店.comから取得し、犯罪発生件数は警視庁の公開情報、地区別のコントロール変数は住民基本台帳データ等から取得した。
分析結果はコンビニに関しては予想通りで、コンビニが多いほど地域の犯罪発生、特に非侵入窃盗犯の発生が有意に減少することが示された。しかし、コンビニと一般の食料品店の犯罪抑制効果に有意な差はなく、24時間営業ではない食料品店にも十分な犯罪抑止効果が認められた。理由として、利用客や通行人が「日常活動理論」における「適当な標的」になり、犯罪件数を上昇させ、「有能な監視者」による犯罪抑止効果を相殺した可能性がある。
また、平成28年経済センサス活動調査から取得した事業所数の密度が平均以上である地域が1をとるダミー変数を交差項に用い、地域の経済的特性をコントロールした分析では、事業所密度が平均未満の地域では、コンビニ・食料品店それぞれが多いほど犯罪発生件数が有意に上昇し、その効果に有意な差はない。一方、事業所密度が平均以上の地域では、コンビニ・食料品店それぞれが多いほど犯罪発生件数が有意に減少し、その犯罪抑止効果は、犯罪発生件数全体においてコンビニのほうが有意に大きい。
以上のことから、事業所密度が高く、経済的に発展していると考えられる地域では24時間営業を行う店舗が犯罪抑止効果を持ち、そうでない地域ではむしろ犯罪発生件数を増加させる効果を持つといえ、地域の特性による犯罪抑止効果の違いが認められる。