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26期生 赤荻 雅弥

独立系ベンチャーキャピタルがもたらす新規上場企業の業績への影響:
ミクロデータによる企業間比較分析

 日本における経済停滞の課題として指摘される生産性の向上のためにベンチャー企業に対する関心が高まっている。ベンチャー・キャピタル(VC)は一般に銀行からの借り入れが難しいとされるベンチャー企業に出資を行うプライベート・エクイティ・ファンドの一種である。しかし、日本のVCの投資額は対GDP比でG7諸国の中ではイタリアに次いで低く、ベンチャー企業へのリスクマネーの供給が課題である。事業会社系、金融系、大学系、政府系のVCは「キャプティブVC」と称され、親組織の影響下にあり、財務的・戦略的リターンを求めるとされる。一方、独立系VCは財務的リターンのみを追求するため、独立系VCがベンチャー企業の業績の向上に寄与するのかという観点で、本研究ではスタートアップエコシステムでのVC、特に独立系VCの関与による上場前、上場後、及び上場前後での企業業績への影響について検証する。
 本研究では、2012年から2017年の5年間にJASDAQ・東証マザーズ市場に新規上場した企業のうち、上場時にVCが出資している企業183社で構成されるクロスセクションデータで最小二乗法を用いて分析を行った。分析の結果、IPO時のリードVCの出資比率が高いほど上場後の売上高成長率は小さくなるものの、リードVCが独立系であることは、その出資比率に関わらず、上場後の売上高成長率に対して有意な効果を持たないことがわかった。
 VCからの資金調達は、資金制約の緩和、経営支援の効果、シグナリング効果などを持つものの、VCのExitのために早期の上場が必要となり、短期時間軸での評価といった上場コストにより売上成長率が縮小する可能性が示唆される。また、事業環境を深く理解する創業者一族の持分比率が高いほど、上場前/上場前後での売上高成長率が高くなっており、起業家や資金調達担当者は独立系VCを含むVCの経営監督・指導による育成効果を期待して過度に依存しないことが求められる。銀行からの借り入れの際に不動産担保や個人保証に依存しない「事業成長担保権」を推し進める動きがあることからも、銀行借り入れを活用した資金調達を行い、創業者を中心とした株主構成で事業を展開することが会社の成長にとって望ましいと言える。一方で、本研究はVCによる出資の内生性や上場前後の株主構成の変化に対処できていない点などが重要な課題である。

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