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26期生 平松 紗英

東京23区の民泊条例がAirbnbの市場に与える影響
操作変数法、回帰不連続デザイン、ヘドニックプライスモデルによる実証分析

 民泊の条例は、社会秩序の維持や市場の保護という規制の本来の目的を果たしているのか。「民泊」とは、一般の民家に宿泊することを指す。近年の日本において、民泊は、観光客の新たな宿泊場所の選択肢として普及している。一方、民泊では公衆衛生の悪化や騒音等、近隣住民とのトラブルも目立つ。こうした負の外部性に対し、国は2018年に住宅宿泊事業法(民泊新法)を施行し、東京23区のうち18区は法律に上乗せする形で条例を設けた。しかし、一部の条例は民泊の営業に厳しい条件を課しており、規制の目的を果たしているのか疑問が残る。
 そこで本稿は、日本で最も民泊の需要がある東京23区を対象に、条例の民泊市場への影響を分析した。データは、主に各自治体と民泊市場に関する最大のデータソースであるAirbnbより収集した。これらのデータから作成した2023年9月時点のクロスセクションデータを用いて、条例と町丁目ごとの単位面積当たりの民泊密度の関係及び条例と宿泊料金の関係を検証した。前者に関しては、平均値の差の検定を行った後に、操作変数法と回帰不連続デザインを用いて頑健性を確認した。後者に関しては、ヘドニック分析を行った。
 結果として、条例は民泊密度に有意な影響を及ぼさないが、宿泊料金には有意に正の影響を及ぼすことが示された。この結果より、条例は民泊事業への参入と撤退よりもむしろ既存の民泊市場の価格を上げる効果が強いことが示唆された。また、非有意な結果が出た原因として、データの制約と、区ごとの条例強度の差異を加味していないこと、そして欠落変数がある可能性がある。加えて、条例はあくまでも法律の上乗せに過ぎず、法律が条例よりも市場全体へ大きな影響を及ぼしている可能性がある。
 本稿は、はじめて日本の民泊事業と規制の関係について論じた研究である。民泊に関する先行研究は、条例施行前後の市場や条例のある都市間の比較、民泊の他産業への影響について論じた研究が多い。日本を対象に、かつ1つの大都市内の条例の境目における民泊市場に特化した点において、本研究の新規性がある。また、民泊と条例をテーマにした研究で操作変数と回帰不連続デザインを用いた研究は非常に少ないという点にも新規性がある。本研究が日本の民泊に関する実証研究の発展の一助になることを期待する。そして、民泊事業のデータの拡充と公開が今後の民泊に関する実証研究の向上のために望まれる。

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