26期生 小林 尚史
自治体の再生可能エネルギー施策の効果:
市区町村のパネルデータを用いた実証分析
近年、気候変動対策や持続可能な社会を実現するために2050年までのカーボンニュートラル実現は重要な課題であり、特にCO2を多く排出している電力分野での脱炭素化は重要である。また、再生可能エネルギーの普及において、地方自治体が担う役割は大きい。本研究では、市区町村単位での再生可能エネルギー導入実績値のパネルデータを用いて、自治体の再生可能エネルギー施策の効果に関する分析を行った。
補助金政策など自治体の再生可能エネルギー施策に関する先行研究は存在するが、導入実績値を用いている研究は少なく、多くは都道府県を調査対象としている。本研究は、実際の導入実績値を用いて市区町村単位で再生可能エネルギーの施策を検証することに新規性がある。本研究は、施策として自治体のゼロカーボンシティ宣言、地方公共団体実行計画、太陽光パネルの共同購入事業、補助金政策の効果を分析する。
結果として、ゼロカーボンシティ宣言は再生可能エネルギーの導入に負の効果を、地方公共団体実行計画は小規模太陽光発電の導入にのみ正の効果を、共同購入事業は人口3万人以上の市区町村をデータセットとしたときに正の効果を、そして補助金政策は太陽光発電全体の導入に正の効果を与えることがわかった。共同購入事業に関しては、共同購入によって初期費用を十分に下げることができる人口の多い地域で効果が実証された。
また、本稿では、ゼロカーボンシティ宣言の効果に負の逆因果が存在している可能性があるため、隣接市区町村のゼロカーボンシティ宣言のデータを用いて二段階推定を行った。結果、ゼロカーボンシティ宣言の負の効果が消えたため、負の逆因果が存在していることが示唆され、補助金政策の効果は頑健であることが確認された。
以上より、自治体の宣言や計画策定だけでは再生可能エネルギーの導入を促す効果は低く、共同購入や補助金政策など市民の再生可能エネルギー導入における経済的障壁を低くする方がより効果が高いということが示唆された。
本研究には課題がいくつか残されている。1つ目は、再生可能エネルギー全体の導入に影響を与える変数を含むことができていない点である。本分析はパネル固定効果分析を用いて地域の固有の再生可能エネルギーポテンシャルの影響を取り除こうとしたが、再生可能エネルギーのポテンシャル変数をモデルに含むことができればより正確な推定を行うことができる。2つ目は、施策の違いを考慮できていない点である。本分析では、データの制約によって宣言や施策の違いをモデルに含めることができなかった。施策内容を考慮できれば、より研究を深められるだろう。