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26期生 大森 綾乃

ホテル存続要因の分析

 今日、宿泊業界では新型コロナウィルスの影響から回復傾向にあるが、コロナ禍を経てリモートワークが進み、宿泊事業をとりまく環境は変化してきている。そのため今後、どのような特性を持つ宿泊施設が生き残りやすいのかを把握し、ホテル経営に活かすという点において、宿泊施設の存続要因を定量分析することは意義があると考えられる。
 宿泊施設の立地に関する研究は都心部の立地を中心に多岐にわたる。しかし都心部だけでなく都心部から離れた郊外の立地も含めて定量分析した研究はなかなかない。またアンケート調査より、宿泊客が宿泊施設を決める際の基準の上位に宿泊施設の充実さが挙げられている。しかし、先行研究ではこのような宿泊施設の宿泊以外の機能、施設の充実さとホテルの経営に関して定量分析した先行研究は見当たらない。そこで本研究では、郊外も含むホテルの立地条件や宿泊以外の機能がホテルの廃業率に影響を与えるのかについて分析する。立地条件の分析対象は、大阪中にある今も存続しているホテル・旅館、さらに2010年〜2023年に廃業したホテル・旅館を対象とする。宿泊以外の機能の分析対象は大阪府、愛知県、福岡県の 2010 年〜2023 年に廃業したホテル・旅館、立地条件や周辺環境の条件を揃えるため廃業したホテルと同じ市又は区にある存続しているホテル・旅館を対象とする。存続しているホテル・旅館のデータは、国内旅行の大手予約サイトの「るるぶトラベル」、 廃棄したホテル・旅館のデータは、日本中の開店と閉店の情報を集めた サイトである「開店閉店.com」から取っている。また分析手法として生存分析の Cox 比例ハザード分析を採用する。
 結果として仮説が支持されたのは宴会場のみであり、立地条件の良さや宴会場以外の宿泊施設の機能による廃業率への影響について有意な結果は出なかった。本研究から宿泊事業の企業戦略として、交通の便の良い立地のみがホテルの存続に重要とはいえなく、都心部から離れていても送迎サービスを充実させることにより、長く経営を続けることが可能であるという点がいえる。また大勢の宿泊客を呼び込めることができ、ホテルとの親和性の高い宴会場を備え付けることで、より多くの需要を見込むことができるといえる。
 本研究の限界点として、データの制約から宿泊料金をコントロールできていない点、データ元に掲載されていないホテルや開業年が分からないホテルは除外されるサンプリングバイアスがある点、リーマンショック時に廃業したホテルを対象に入れることできていない点がある。また宿泊以外の機能の存続ホテルを立地条件や周辺環境を揃えるために絞り込んだが、観測数を多く確保する点や、サンプリングバイアスの影響を排除するためにも対象地域の全ホテルをサンプルとする方が望ましいといえる。最後にデータの制約によりホテルの規模のコントロールができていないため、規模が大きく経営基盤が安定しているホテルのバイアスの影響が残ってしまっていることが課題に挙げられる。

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