26期生 立元 駿介
普通自動車運転免許の自主返納支援策の効果:
岩手県市町村データによるパネル分析
高齢ドライバーを加害者とする交通事故の発生が、対処すべき社会問題として長らく注目されている。その中で、高齢ドライバーが運転免許を自主返納しやすい環境を作るため、様々な支援策が自治体ごとに実施されてきた。支援策の内容は、バス・タクシーの利用料金を優遇するものから、市内での購買の際に使える商品券・ポイントを付与するもの、店頭での購入商品を自宅まで配送するサービスまで、非常に多岐にわたる。本論文はそうした運転免許返納支援策の定量的効果に着目し、高齢者の運転免許自主返納を促進する要因の分析を行った。運転免許返納に関する高齢ドライバーの意識調査を扱う先行研究が多い中で、そうした支援策に着目した分析をおこなうことは非常に希少性が高く、学術的新規性を提供する。
本論文が分析対象とするのは岩手県の33の市町村であり、市町担当課・事業体へ問い合わせ等を行って2013年から2022年までの10年分のバランスパネルデータを作成した。そして、先行研究での議論を論拠として、「返納支援策があれば高齢者の運転免許返納は促進される」、「返納支援策のうち、バス・タクシー等の交通機関の利用を優遇する内容のものは効果が高い」との仮説を立てた。それらを立証するため、運転免許返納を行った高齢者の人数やその割合を被説明変数とする重回帰モデルを構築し、固定効果による分析を行った。その結果、「支援策の有無が運転免許返納促進に有意に影響を与えること」、「支援策の内容として交通機関の利用料金を優遇する系統のものが最も頑健に効果があること」が分かり、二つの仮説は次善的に立証された。加えて、有意に効果があった交通機関の利用料金を優遇する系統の施策について、制度設計の観点から 2 種類に施策を細分化して分析を行ったが、有意な結果は得られず比較を行う事は出来なかった。
分析モデルに関して、「運転免許返納状況が支援策の実施状況に影響を与える」という逆因果の存在が考えられ、分析結果の係数の値が過小推定されている可能性があり、支援策の実施状況を決定する操作変数を利用した二段階最小二乗法による対処を行う余地が残されている。また、高齢ドライバーの運転免許自主返納そのものが、事実として交通事故抑制に貢献するという前提も定量的に検証する必要があり、年齢以外の方法でドライバーの運転を制限する手法を模索するべきでもある。