27期生 芳我 仁
政策保有株式の売却要因:
企業と投資家の相互作用
今日、政策保有株式に関する議論は活発性を増している。政策保有株式とは投資目的ではなく買収防衛や取引の安定化といった経営戦略上の目的で企業が保有している株式のことであり、コーポレートガバナンスの形骸化や資本効率の悪化といった面で特に海外機関投資家を中心に批判されている。政府もこの問題に対し政策保有株式の開示制度の充実化を行うなどの対応を取っているが、政府・投資家の要求と実際の企業の売却行動には隔たりがあるのが事実である。本研究では企業の売却行動に焦点を当て、その要因の分析を行いこの隔たりを埋めるための学術的知見の蓄積に貢献することが主旨となっている。
本研究ではTOPIX採用企業のうち2014年度末に政策保有株式を保有していた事業会社1597社の2015年度から2022年度の8年間のデータをサンプルとして固定効果モデル、固定効果ロジットモデルを用いて分析を行った。分析の結果、企業規模が大きい企業においては資本市場のモニタリング要素が政策保有株式売却を促進すること、経営成績が良い企業において売却が進められる傾向にあること、投資家間で2018年度以降に売却を求める基準が共有されていること、企業側は投資家への対応のために「見かけ上の」政策保有株式売却に注力している可能性があることが判明した。
この研究は、投資家から企業への働きかけと相互作用の一端を明らかにした点、政策保有株式といったガバナンス寄りの側面でも「物言う株主」と呼ばれるような投資家の存在感が大きくなっていることを示唆した点で新規性を発揮した。一方で、政策保有株式を売却することでの便益が議論されていない点に課題がある。売却行動による便益についての研究を進めていくとともに、投資家が売却資金の活用についても働きかけを強めていくことが期待される。