27期生 丹羽 貴行
住所が埼玉県か東京都かという違いが家賃に与える影響の分析
~単身向け賃貸物件に着目して~
近年の超低金利政策下においてオフィスや住宅の開発が積極的に行われ、住宅ローンも低金利なことから住宅の需要も高い状態が続いてきた。こうして、都心の地価・住宅価格は物価上昇率を超えるペースで上昇し続け、数年前とは全く異なる水準に達した。その一方で、東京都心での急上昇に比べれば、その周辺の県での地価・住宅価格の上昇率は落ち着いている。2014年比での2024年の住宅地の地価を見てみると、埼玉県では約16.4%増、東京都では約39.0%増となっており、分かりやすく差が生じている。
本研究では、「他の条件を全て一定としたとき、住所が埼玉県であるということは家賃を低くする」という仮説を、家賃に影響を与える様々な要素をコントロールした上で定量的に分析する。先行研究では、東京都と他県との比較のような、住所の違いに焦点を置いたものは見られない。本研究の分析対象は、JR京浜東北線、埼京線、東武スカイツリーライン、東武東上線、埼玉高速鉄道-地下鉄南北線、つくばエクスプレスの6路線の沿線のうち、「山手線の外側かつ、東京駅または新宿駅への所要時間が最速で40分以内となる駅」から徒歩15分圏内の30㎡以下の物件とした。利用したデータは不動産情報サイトSUUMOが一般公開する情報が主である。先行研究では用いられていない変数もいくつか組み込んだ。被説明変数を住宅の実質賃料としたヘドニックモデルを用いて、様々な要素をコントロール変数とした上で、埼玉県ダミーが家賃に与える影響を検証した。
分析の結果、住所が埼玉県であることが住宅の実質家賃を約7.8%下げると推定された。東京都に比べて埼玉県内の単身者向け物件は、他の要素をコントロールした上でもなお家賃が低い。居住者からすれば埼玉県の物件を選ぶ経済的な利点があり、これを前面に打ち出すことで、埼玉県において、家族類型の中で最も多い単独世帯をさらに増やすことができるだろう。
本研究の課題として、埼玉県と東京都の住環境の違いのすべてをコントロール変数に組み込めているわけではないため、住所の違いが家賃に与える影響を実際より過大に評価している可能性がある。また、他県を対象にした分析を行えず、今回の差が東京都のプラスのブランド力によるものか、それとも埼玉県側に負の力があるのかが明らかになっていない点も課題である。