template

Articles

27期生 湯浅 凌太郎

ニュースリリースに対する投資家の評価:
投資家志向、消費者志向の任意開示情報に注目して

 今日、政府が企業に対し制度開示のさらなる拡充を促している。その理由の一つとして外国人投資家の増加により、経営の透明性を国際基準まで上げる必要が出てきたからだと考えられる。このように投資家が企業に対して情報開示を求めている環境の中、企業は任意開示の情報も拡充してきた。しかし、企業には経営戦略上開示しない方がよい情報も存在する。そこでどのような情報を投資家が評価するか判明すれば企業が情報戦略上有利になる。本研究では開示する情報の中でも、Glaeser(2018)が明らかにした営業秘密の依存度が上昇した企業は機密情報の開示が減少するが、営業秘密に関連する情報の非対称性が増大するのを軽減するために非機密情報の開示が増加するということに注目し、機密情報の開示と非機密情報の開示には戦略的代替性があるのかを検証する。
 本研究では、研究対象を日本の自動車メーカー8社に限定し、各企業のホームページからニュースリリースを入手し手作業で分類をした。また、企業の開示する機密情報を投資家向けの任意開示である研究情報、非機密情報を消費者向けの任意開示である実績情報として代理変数を取り、説明変数とした。投資家の反応を分析するため株価収益率を被説明変数とし、コントロール変数には任意開示の情報と対比させるため、投資家が最も投資の判断基準として使うと考えられる強制開示の情報を用い、パネル固定効果分析を使用して分析を行った。また、戦略的代替性を検証するために研究情報と消費者向けの実績情報の交叉項を用いて追加分析を行った。分析の結果、機密情報である投資家向けの研究情報の開示に株価収益率を高める効果はなく、非機密情報である消費者向けの実績等の情報の開示には逆に株価収益率を低くする効果があることが検証された。また、機密情報と非機密情報の開示と非機密情報の開示には戦略的代替性がないことも検証された。
 本研究で、機密情報である研究情報の開示自体に株価収益率を高める効果はなく、開示する機密情報の内容が重要であることが示唆された。また、投資家は消費者向けの情報を投資の判断材料にしないか、むしろ過度な受賞や販売台数の誇示は不祥事や研究活動が上手くいっていないことなどを隠すためのシグナリングだと捉えている可能性が示唆された。同時に、強制開示の有価証券に記載されている業績が好調であったり、多くの自動車メーカーが行っている販売実績が好調であったりするときに株価収益率が有意に増加するが、業績や販売台数が不振のときは株価収益率が下がらないため、先行研究にあるようにニュースの内容よりも市場の感情極性によって投資家が株価の売買をしている可能性も示唆された。本研究の課題として、研究情報の開示自体を扱い、ニュースリリースの内容の中で投資家が高く評価するものと低く評価するものを分類できなかった点や、消費者の購買行動についてより深く分析できず、消費者向けの非機密情報の変数をうまく選定できなかった可能性、さらに変数の分類に客観性が損なわれているところなどが挙げられる。

Back