27期生 銭林 潤
音楽市場におけるショート動画のプロモーション効果
~YouTubeデータによる実証分析~
本研究では、J-POPにおけるショート動画の投稿が楽曲の再生回数を増加させるプロモーション効果を定量的に分析した。この分析は、ショート動画が音楽の流通経路として重要な役割を果たすようになった令和時代の音楽マーケティングに、新たな視点を提供することを目的としている。
ショート動画には、アーティスト自身が宣伝のために投稿するものと、「歌ってみた」や「踊ってみた」など視聴者がN次創作として投稿するもの(UGC)がある。本研究では、YouTube Shortsを対象とし、2021年後期以降にリリースされたJ-POPのリリース後30日間のパネルデータを構築したうえで、固定効果モデルを用いて分析を行った。
その結果、アーティスト自身によるショート動画投稿とUGCのいずれも、楽曲のプロモーション効果を持つことが確認された。特に、音楽番組への出演やアニメ・ドラマの主題歌としての放送と同程度の効果があることが明らかになった。また、楽曲の特徴に基づくサブサンプル分析の結果、ショート動画のプロモーション効果は年々増大していること、さらにアニメやアイドルといった特定のジャンルにおいてUGCの効果が限定的であることが示された。これらの結果は、今後の音楽市場におけるショート動画の影響力や、その効果がジャンルやファン層によって異なることを示唆している。
一方で、本研究にはいくつかの課題が残る。まず、データの取り扱いやモデル構築において、ショート動画のフィルタリングやコメント数の整理方法に関する妥当性検証が十分に行われていない点が挙げられる。また、逆因果関係や見かけの相関といった問題の可能性が残るため、YouTube Shortsにおける2023年2月の収益化制度導入を外生的ショックとした操作変数法を試みたが、統計的に有意な結果は得られなかった。したがって、推定結果の正確性については今後さらなる検討が必要である。
今後の研究課題として、ショート動画の活用がアーティストの収益やファンの獲得・定着にどのように寄与するのかを明らかにすることが求められる。このような研究は、人口減少による市場規模の縮小という課題を抱える日本の音楽産業の持続可能性を議論するうえで、貴重な知見を提供するものと期待される。