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28期生 宮嵜 万緒

日本における無痛分娩実施率の地域差に関する要因分析

 無痛分娩とは、麻酔を用いて出産時の痛みを和らげる分娩方法である。無痛分娩は出産時の身体的・心理的負担を軽減する手段として国際的には広く普及している一方、日本では2023年時点で13.8%の実施率にとどまっており、依然として低水準であるうえ、地域間格差も大きい。近年、東京都による助成金制度の開始や国による統計整備が進み、日本において無痛分娩への関心は高まりつつある。しかし、日本において無痛分娩の選択要因を統計的に分析した研究は限られており、先行研究の多くは質的研究にとどまっている。そこで本研究では、都道府県レベルのパネルデータを用いて、無痛分娩に影響を与える要因を需要面・供給面の双方から固定効果モデルにより分析する。これにより、日本固有の無痛分娩に対する障壁を実証的に明らかにし、今後の医療政策等の検討に資することを目指す。
 分析の結果、供給面では「無痛分娩対応施設割合」が一貫して正に有意であり、麻酔科医人数の多寡よりも、無痛分娩ができる施設の存在がその地域の無痛分娩率を左右する重要な一因であることが示された。需要面では、「平均年収」、「共働き世帯割合」が正に、「三世帯家族割合」が負に有意となったものの、妊婦の平均年齢を統制したモデルではこれらの効果は消失しており、当該変数の影響は妊婦の年齢構成によって説明される部分が大きいことが示唆された。一方で「一人親世帯割合」は常に正に有意となり、先行研究とは異なる結果が得られた。シングルマザーに対する公的支援などが関係している可能性があるが、本研究でその具体的なメカニズムを特定することはできなかった。
 本研究の課題として、都道府県レベルのマクロデータに基づく分析であり、個々の妊婦に関するミクロな情報を把握できない点が挙げられる。また説明変数である「無痛分娩対応施設割合」について無痛分娩率と逆の因果関係が存在する可能性を十分に排除できなかった点も本研究の限界である。

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