28期生 瀧瀬 元躍
森林経営管理制度が林業経営体の受託面積に与えた影響
~都道府県パネルデータによる定量分析~
近年、わが国の人工林は成熟期を迎え蓄積量が増加する一方、木材価格の低迷や所有者の高齢化により、管理放棄や所有者不明森林の増加が深刻化している。これに対処するため、市町村が仲介役となり森林管理を集約化する「森林経営管理制度」が2019年に施行された。本制度が実際に管理不全の解消に寄与しているかを検証することは、今後の林業政策において極めて重要である。しかし、既存研究は事例分析に留まり、全国規模の定量評価は不足している。そこで本研究は、制度導入が都道府県レベルの受託面積に与えた因果効果を解明し、政策的含意を提示することを目指した。
本研究では、47都道府県における2015年から2020年のパネルデータを使用し、差の差分析を行った。モデルには、都道府県・年次固定効果を導入した。被説明変数には、林業経営体による受託面積を私有林人工林面積で除した森林管理率を採用した。処置群と対照群の識別にあたっては、本制度が民有林を対象とすることに着目し、国有林割合が低く制度ニーズが高い地域を処置群、そうでない地域を対照群と定義した。さらに、地域の林業基盤を考慮するため、林業経営体数をコントロール変数として投入し、厳密な検証を試みた。
分析の結果、政策導入前の並行トレンドが確認された上で、制度導入効果を示す係数は統計的に有意ではなかった。すなわち、制度へのニーズが高い地域において、導入後に管理率が相対的に向上したという統計的証拠は得られなかった。また、林業経営体数についても有意な影響は確認されず、単なる担い手の多寡だけが管理率を変動させる要因ではないことが示された。
以上より、2020年時点において本制度がマクロな受託面積に与える効果はあったとする統計的な証拠は得ることができなかった。これは制度自体の無効性を意味するものではなく、意向調査や境界確定といった膨大な行政手続きによるタイムラグが、短期的な成果の発現を阻害している可能性が高い。また、制度浸透後の2025年以降のデータを用いた中長期的な検証が期待される。