2期生 片岡 功樹
企業合併が研究開発に与える影響
小田切(1990)はM&Aが企業の経営効率性に与える影響について分析し、企業の利益率、成長率に与えるM&Aの効果は疑わしいとした。また、日本企業は研究開発活動という内部成長を成長戦略の主軸に置いており、M&Aという外部成長戦略はそれを補完するものであった、という見解を述べている。
しかし90年代以降、日本においてもM&Aが頻繁に用いられるようになり、その重要性は高まっている。こうした中で、企業(特に製造業)は内部成長手段としての研究開発活動、外部成長手段としてのM&A戦略をより高い次元で調整する必要がある。そこで本研究は、M&Aは研究開発活動にどのような影響を与えるか、という問題に焦点を当てることで、これからの企業の成長戦略に何らかの方向性を示すことを目指す。より具体的には、M&Aは研究開発活動を活発化(研究開発支出の増大)、効率化(研究開発生産性の上昇)させることができるか、ということについて考察する。
研究の枠組みとしては、企業合併と研究開発共同組合を組織戦略の観点から比較し、そこから企業合併が研究開発活動の活発化に与える影響に関する幾つかの仮説を得た。その比較は、①スピルオーバー効果②合併当該企業の研究開発の重複部分の解消③規模の経済性効果④インセンティブ・アラインメントの問題、などの観点から行われた。
これによって得た仮説は、1)企業合併は研究開発支出を増大させる、合併タイプ別では2)多角化型合併は研究開発支出を増大させる3)水平型合併は研究開発支出を減少させる、などである。1981-96年に実施された合併を分析対象とし、合併後2〜7年での研究開発支出への影響を観察した。またバブル経済の影響を考慮して、サンプルを1981-90年と1991-96年に分けた分析も行った。幾つかの回帰分析の結果は仮説1)、2)を支持せず、また 1991-96年のサンプルでは、合併後3年で水平型合併は研究開発支出に有意に負の、垂直型合併は有意に正の影響を与える。
企業合併が研究開発の効率性に与える影響については、データ制約上、1992-96年に合併した企業の公開特許数を用いて分析を行った。その結果は、合併後3年で水平型合併は研究開発生産性に有意に負の影響を与え、垂直型合併は有意な影響を持たない。
これらから総合して、(1)水平型合併は研究開発活動の活発化、効率化に逆行するものであり、上述した調整された成長戦略の観点からは望ましい戦略ではない(2)垂直型合併は研究開発活動を活発化させる一方効率化を阻害せず、成長戦略として有効である、という二つの結論が導かれた。