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4期生 舌間 愛

繊維業界の多角化戦略と経営組織構造との関わりについて

 この研究は、衰退の一路を歩む繊維産業において、企業統治がどのように「多角化」という戦略に影響を与えるか、また「多角化」が企業の組織形態にどう結びつくかについて、実証分析を行ったものである。つまり「企業統治」⇒「戦略」⇒「企業組織」という三段階のつながりについて研究を行った。
 研究の枠組みとして、一つ目に企業の多角化の関連性や程度をセグメント情報から測定してその大小に分け、それぞれがどのような組織(分権化、集権化をどれくらい行っているかを、組織図や分社化比率から判断したもの)を取った時に収益性を高めるかを検証した。また二つ目に多岐に及ぶ繊維産業の多角化をいくつかの方向性に分け、それぞれにおいての収益性の大小を比較した。また、三つ目に繊維産業の支配のあり方を株式の所有状況から「経営者支配」「株主支配」などに分類し、それぞれの企業がどのような多角化を行っているのかを検証した。いずれの分析も1997年度から1999年度の三年間のパネルデータ分析である。
 そこで、1、「多角化の程度が高ければ高いほど、また多角化に関連性がないほど、分権化の組織をとったほうが収益性は高い」2、「多角化は関連ある技術を持って経営資源の共有化をはかりながら行うときに収益性を高くする」3、「株主を含む外部の監視が少なく株主の利益最大化を必ずしも目的としない企業は成長を目指して関連性のない分野に、活発に多角化を行う」という大きく三つの仮説を立て、分析を行った。
 その結果、以下のような結論を得た。

 1.多角化の関連性と収益性については仮説どおりである。多角化の程度と収益性については仮説を不支持であった。多角化を活発に行うときは収益をあげない分野や新規事業にして集権的な組織管理も必要となってくるからではないかと考えている。

 2.仮説を支持する結果となった。繊維産業は、既存の繊維技術を生かしながら関連性の高い分野へと進出していった場合に収益性が高く、多角化を関連のない分野へと行っていった場合の収益性への正の影響は確認できなかった。しかし不動産産業への進出は例外で、影響は正であった。遊休資源をうまく利用していることや機会費用が少ないことがその原因として考えられる。

 3.株主の利益最大化を必ずしも目指さない経営者支配の企業であっても成長のための多角化をあまり行わず、また関連性の低い分野への多角化は控えていることが分かった。既存の繊維事業が現在低迷しきっていて、新たな事業を行う際の収益源となっていないことが原因ではないだろうか。つまり繊維産業では活発に多角化を行いたくてもそれが難しいということである。経営者支配企業であっても生き残りをかけて新たな中核事業の創造に集中しているのではないだろうか。

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