4期生 高砂 香苗
1970年代及び1980年代における鉱工業技術研究組合への参加要因と多角化について
日本と言えば、総理大臣の名前より先にソニー、トヨタなどの有名企業の名があがる。そのことは日本の経済がいかに世界に影響を及ぼしているかを示す事実であると言える。そして、それら企業の力の源となるのは、研究開発活動である。
研究開発活動の形態は色々とあるが、中でも鉱工業技術研究組合は日本特有の性質を持つと言われている。政府は企業集合体としての技術組合を援助することで公的な立場をアピールできると考え、逆に企業の側も技術組合を受け皿として政府の援助を得ながら、研究開発活動を進めることができたという点を、データの面からも実証できる部分はあるのではないかと私は考えた。
日本の技術水準が欧米へのキャッチ・アップから商業的開発へと推移するにつれ、鉱工業技術研究組合に参加するインセンティブは研究開発ポートフォリオの多様化に移ったと言えよう。企業の研究開発支出が増加するに伴い、企業の研究開発ポートフォリオにはよりリスクの大きなプロジェクトが含まれるようになり、成功の可能性は高くはないが、もし成功した場合の影響はきわめて大きい基礎研究開発に、企業は一種の保険として参加するのではないかと考えられる。そして、それには企業の多角化の程度が関連しているのではないかという推論のもと、分析はすすめられる。なぜなら、すでに多角化度の高い企業は基礎研究開発で得た技術を多くの分野で応用することができるためである。
まず、日本で行われる共同研究開発活動、そしてその大部分を占める鉱工業技術研究組合の実態について論じ、その後、研究開発やその多角化との関連に関する先行研究を紹介した上で、私の実証分析を論じていきたいと思う。
実証分析は企業が鉱工業技術研究組合に参加するか否かについてのプロビット分析であり、説明変数には、企業規模をあらわす売上高、研究開発活動の指標としての売上高研究開発費比率、製品構成売上高比率をもとにした多角化度指数が用いられる。
結果は70年代、80年代、いずれにおいても売上高と売上高研究開発費比率については、有意な水準でプラスの効果が見られた。また、多角化についても有意とまでは言えないが、プラスの効果が見られることもわかった。
相関関係を見ると、売上高よりも売上高研究開発費比率の方が、多角化度との関係が強いことがわかる。単に企業規模が大きいだけではなく、売上高研究開発費比率の高い企業で多角化が進んでいるのである。
つまり、参加決定要因としては多角化度より企業規模の影響の方が大きかったのである。これは、いくら政府からの補助があるとは言え、やはり技術研究組合が課題とするような比較的リスクの大きな研究開発に投資できるのは、それなりの資金を持った企業だけであるからだと考えられる。