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7期生 千明 宏

日本企業におけるメインバンクの存在意義

 本稿では近年の金融環境の変化が、メインバンクの役割にどのような影響を与えたかを、企業の資金調達におけるメインバンクのエージェンシーコスト削減効果に焦点をあてて実証分析する。具体的には、設備投資アプローチを用いることで、メインバンクが企業の設備投資行動における資金制約を緩和させているかどうか、一部上場企業と二部・非上場企業にわけてそれぞれについて考察する。1990年ごろの先行研究から企業の設備投資行動は内部資金の多寡に基づいていると実証され、またメインバンクは貸し手と借り手のエージェンシー問題を解決することで、企業の内部資金制約を緩和させているという結果が出ている。しかしそれは金融環境が現在とは大きく異なる1980年半ばを研究対象にしているものである。本稿は規制緩和が相次ぎ金融環境の変化が先行研究とだいぶ異なったと思われる10年後を研究対象とし、先行研究との結果がどう変わっているかを分析している。また同時に今まで分析対象とされなかった二部・非上場に対しても焦点をあて、一部上場企業との比較対照も行っている。
 本稿の分析から、一部上場企業において、資金調達面でのメインバンクの役割はもはや失われているという事実が導かれ、またそれとは逆に二部・非上場企業においては依然としてメインバンクの役割は重要であるという結果が得られた。近年の資本市場の発達、詳細な情報開示の進展、金融機関の体力低下など、金融環境の変化がメインバンクと企業の関係に変化をもたらしたことが推測される。いずれにしろ、日本のメインバンクシステムは過去と比べて大きく変化をしつつあるということ、メインバンクシステムは依然として必要であるという環境が存在しているということ、が実証された面で意義ある研究である。また研究に関連する理論的な部分も付録として掲載しているので参考にしてもらいたい。

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