7期生 高橋 邦行
市場支配力仮説と効率性仮説
市場集中度と利益率の正の相関関係について二通りの仮説がある。一つ目の仮説は高い市場集中度により企業が市場支配力を持って企業の利益率が高くなるという仮説でこれを市場支配力仮説と呼ぶ。二つ目の仮説はある企業が効率的である結果、シェア拡大によって市場集中度が高くなり、同時に利益率も高くなり、よって市場集中度と利益率が正の相関関係を持つというものでこの仮説を効率性仮説と呼ぶ。二つの仮説は必ずしも排他的ではないが、二つの仮説が示すインプリケーションはまったく逆になる場合がある。この論文では二つの仮説が日本の産業において説明力を持つかどうかを一定の条件の下に選ばれた日本の15 の産業の1995年から1999年の5年間のデータをパネル分析して検証した。産業のシェア上位1位・2位企業と3位・4位企業にグループわけして、1 位・2位企業、3位・4位企業の利益率を被説明変数、1位・2位企業、3位・4位企業の労働生産性・合計シェアなどを説明変数にとり、労働生産性やシェアの利益率との関係を調べた。
その結果、労働生産性に関しては有意な結果がでるもののシェアに関しては有意な結果は得られなかった。これより市場支配力仮説が支持されないことがわかる。日本で市場支配力仮説が支持されないのは日本企業特有の企業行動にあるのではなかろうか。日本企業は欧米の企業に比べて利益率よりも売上高や市場シェアを重視する傾向があるといわれている。日本企業が利益率を犠牲にして売上高やシェアを維持・拡大させることがあることはよく知られていることで、それが日本の産業において市場支配力仮説を成立させない一因であろう。