8期生 安藤 雅明
日本企業の経営者交代とコーポレートガバナンス
企業の業績悪化の責任が経営者にあるとき、既存の経営者を交代させ、より適切な経営者を選任するメカニズムが機能しているかどうか。それは企業のガバナンスシステムを考えるときに最も本質的な問題と言えるであろう。
本稿では、①企業の業績悪化に対して、社長交代の確率は高まるか、②企業の業績が悪化したとき、外国人株主・大株主・「銀行から派遣された取締役」・債権者といった外部のガバナンス主体の存在が「強制された」社長交代の確率を高めているか、という2つの点について検証した。これらを検証することで、日本企業のコーポレートガバナンスの実態に接近することが本稿の目的である。
社長交代の主な理由としては幾つかのケースが考えられるが、本研究の目的は日本企業のコーポレートガバナンスの実態に接近することであるので、本稿では業績悪化に伴う退職・解雇に注目した。そして、そのような社長が交代後に取締役会に留まらないケースを「強制された社長交代」と定義し、社長が交代後に取締役会に留まる「通常の社長交代」とわけて分析をおこなった。
分析はプロビットモデルを用いておこない、サンプル企業は1994年度の売上高上位150社のうち、1994年から2004年の間に少なくとも連続して6年間のデータが入手できた企業とした。(ただし、金融・電力業は除く。また、社長自身や創業家が上位十大株主である企業もサンプルから除外した。)
主な研究結果は以下のとおりである。本研究で扱ったサンプル企業においては、企業の業績悪化に対して経営者自身が責任を取っており、また、そのような経営者に代えてより適切な経営者を選任するメカニズムが企業に備わっていることが示唆された。また、大株主による株式保有の集中と負債の規律づけ効果は「強制された社長交代」を促していることが示唆された。しかし、外国人株主や「銀行から派遣された取締役」によるガバナンスの効果を確認することはできなかった。さらに、「通常の社長交代」は企業の業績ではなく、社長の年齢や社長の在職期間に依存することが示された。