8期生 布袋 悠介
環境パフォーマンスと財務パフォーマンスの相関
利潤最大化を目指す企業活動と環境活動とは厳密には相容れないものである。ここで言う企業の環境活動とは環境に配慮した原材料の調達や環境負荷の小さい製品の開発・生産などのことであるが、これは通常の調達や生産に比して余分なコストを伴うため価格や生産性にネガティブな影響を与えることは間違いない。従って理論的観点に立てばこのような環境活動と、コストを最小化することによって利潤最大化を図ろうとする企業活動とは対極をなすものなのである。
しかし、近年の地球環境問題の深刻化やあるいは製品を購入する消費者の意識の変化などによって企業の環境活動の性質は確実に変化してきている。それにともなってこれまでは社会的評価の向上という目に見えない効果しか存在しないと考えられてきた環境活動が、実は売り上げや時価総額といった客観的な財務指標にも反映されるようなインパクトを持つようになってきているのではないか。
以上の観点から、企業の環境活動の持つ三つの側面に着目し、高い環境パフォーマンスを発揮することが時価総額やROAといった財務パフォーマンスに正のインパクトを有するのではないかという仮説のもと、実証分析を行った。説明変数となる企業の環境パフォーマンスの代理変数として、日本経済新聞社が毎年1回実施している環境経営度調査によって報告される評価項目の中から、前述した三つの側面に対応すると考えられるスコアを設定し、被説明変数の財務パフォーマンスに株式時価総額、ROAをそれぞれ対応させた。
実証分析の結果としては、汚染対策・運営対策パフォーマンスと時価総額との間に有意に正の相関を見出すことができたものの、製品対策パフォーマンスとROAとの間にマイナスに有意な相関が見出される結果となった。結果に対する考察として、環境パフォーマンスが財務パフォーマンスに反映されるまでのタイムラグの存在、或いは現時点で高い環境パフォーマンスを誇る企業には、過去に何らかの環境過失を起こしたという特徴があるため、両者の正負の効果が相殺してしまっている可能性の2点を指摘した。
本研究では、高い環境パフォーマンスが財務パフォーマンスを向上させるという仮説を支持することができたものの、まだまだそのインパクトは小さいということが明らかになった。しかし、深刻化する地球環境問題は今後、より一層企業の行動に影響を与えるであろうことは想像に難くない。そうであるとすれば、近い将来企業の環境問題への積極的かつ主体的取り組みが、投資家や消費者の企業選択の判断基準になるのではないだろうか。