8期生 佐藤 壮志
取締役会構成員の多様性と企業パフォーマンス
本論文は、「多様な人材によって構成される組織は、高いパフォーマンスを発揮できるのではないか」という仮説のもと、企業の取締役会という組織に焦点を当て、「取締役会における人材の多様性度合」と「企業パフォーマンス」の関係を実証的に分析したものである。
今日、企業を取り巻く経営環境は、年々その変化の速さを増し、複雑化してきている。これに対峙する上で、生態系においては、多様性を高めることが、種の生存確率向上のための基本戦略であることに着想を得て、企業にとってもその内部に高い多様性を有することが、高いパフォーマンスを発揮し、生き残りにつながるのではないかと考えた。この論文では企業内の多様性の中でも人材に着目した。特に、「企業パフォーマンスに重大な影響を与える組織である点」及び「構成員個々人の詳細なデータが入手可能である点」から、取締役会を分析対象とした。
実証分析にあたっては、各企業の取締役会を、その構成員の「出身企業別」「年代別」「出身大学別」「出身学部別」に集中度を算出し、それを「取締役会構成員の多様性度合」とした。この指標と、企業パフォーマンスの指標であるROAの関係を分析した(分析1〜4)。さらに、多様性度合がある一定水準を超えて高まると、逆に組織に混乱を招く可能性を考慮し、非線形の逆U字型の相関を検証した(分析5)。対象企業は、東証2部上場卸売業39社、対象期間は2001年〜2002年である。
分析結果は、「出身大学の多様性度合」がROAに対してプラスの効果があることが、有意水準1%で確認できた。その他の多様性度合に関する指標については、有意な結果は得られなかった。また、それぞれの多様性度合に関する指標のROAに対する逆U字型の相関は確認できなかった。
以上の分析から、「取締役会において、取締役らの出身大学の多様性度合の向上は、ROAを高めること」が示された。ここから、能力に関係なく同じ大学出身者の集中度を高める「学閥的関係性」は望ましくないことが示唆される。逆に、取締役会に多様な大学出身者を集わせ、様々な知識・経験・考え方を活かすことがパフォーマンスを向上させると言える。今後、更なる厳しい経営環境の中で、企業は出身大学の観点から、人材の多様性を高めることが、生き残る上で重要になってきていると言える。