8期生 高橋 健
企業はなぜ「選択と集中」を進めるのか
本稿は「企業はなぜ『選択と集中』をすすめるのか」と題し,1998年が「選択と集中」の転換点にあたる理由,またそのメカニズムを理論と実証の両面から明らかにすることをその目的としている。このため研究の主眼としては1つに理論的考察から導出された基本仮説をもとに,「選択と集中」の経済合理性を検証すること,2つに理論と現実の企業行動を有機的に結合させること,3つに因果関係を明確にすることが強く意識されている。理論的考察としては1998年前後に盛んになった「選択と集中」の理論的な解釈を試み,本稿においては特に「負債による規律付け」に焦点を当て,マイヤーズの「過少投資問題」やシャープの「ホールドアップ仮説」に仮説の礎を求めた。考察から明らかにされる仮説として当該期の資金調達の転換(負債から株主資本へ)に着目し,この流れと軌を一にして「選択と集中」が行われたとする視座に立つ。すなわち財務再構築が事業再構築を促したという理解であり,これを基本仮説として実証分析を行っている。主な分析結果によれば,財務再構築を前提として「選択と集中」が行われたという仮説は,信用力を一定とした場合に限り検証された.この意味において1998年はやはり事業再構築の転換点にあったと結論付けられる。また誰が企業に「選択と集中」を迫ったのかは明らかにされなかったが,当時の時代情況を鑑みるに,「選択と集中」は経営者自身の主体的な取り組みであることが推察される。