9期生 神田 健次
開業の経済性
~都道府県データを用いた実証分析
新しいビジネスを生み出す資質と定義される企業家資本というものが豊富なほど、経済成長に正の影響を与えるという仮説を検証するため、都道府県データを用いクロスセクションでの回帰分析を行った。
新規開業には技術革新、雇用創出、競争促進など経済に対して様々な効果がある。このうちの技術革新の経路の一つとして次のようなことが考えられる。
官僚的性格を持つ既存企業の経営陣との見解の相違により商業化されなかった画期的な知識や技術を持つ研究者は、その技術を商業化するために新規開業をする。こうした新規開業はスピルオーバーの役割を果たしイノベーションに貢献し、地域経済に正の影響を与える。しかしながら、画期的なアイデアを持った研究者が開業するためには、開業の費用が十分に低い必要がある。先行研究で定義される、企業家資本とは、新しいビジネスを生み出す地域の資質、具体的には、ベンチャーキャピタルを始めとする金融機関の積極的な融資支援など起業を促進させる環境などである。こうした企業家資本が豊富であれば、以上のような研究者は開業に向かい、イノベーションが推進され、地域の生産性に正の影響を及ぼすことになる。
これを検証するための回帰分析の結果は、ドイツのデータを用いた先行研究に比べ、企業家資本の係数が小さく、企業家資本の地域の生産性に与える影響は正であるが、その程度は小さいというものになった。
このような結果になった要因の一つとして、日本の既存企業では研究開発者の意見を取り入れ、イノベーションを推進しており、ナレッジフィルターの問題が深刻ではないということが考えられる。
さらに別の理由には、日本では、創業企業が画期的なイノベーションを行っていないということも考えられる。画期的なイノベーションなしに、既存企業に比べてわずかな改善を持って参入しているとすれば、新規参入企業は、既存企業と争うほどの大きな競争力を持たないということであり、競争促進効果はあまりなく、さらに、大きな雇用創出にも繋がらず、地域経済に与える影響はわずかなものとなってしまう。
このようなことから、企業家資本を充実させること、すなわち、新しいビジネスを生み出す環境を整備することで、新規企業の参入が生まれ、地域経済が活性化すると考えられる。そして、より地域経済を活性化させるには、漸進的なイノベーションではなく、画期的なイノベーションに繋がる参入を増やす必要がある。そのために、大学研究機関などと企業家の連携をさらに発展させていく必要があると思われる。